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カテゴリ:俳句関連の本の感想
やっぱり俳人の中ではこの人が一番好きだ。10冊の句集プラス、紀行文から俳句のみ抽出したものの中から、作者自ら選んだ3350句を集めた文庫。残念ながらこの朝日文庫の現代俳句の世界シリーズは絶版になってしまった。収録句の多さが魅力なのに。あまりに多すぎるのも読むのが大変なので売れなくなったのだろうか。
156句を手帳に写した。およそ21句中に一つ感じ入るところがあったわけだ。淡々と並ぶ句の中で、時折出会うそれらの句は、他の句と目に入り方が違う。眠い時に読んでいるとよく分かる。1ページ大体12句、数ページあまり関心しない句が続くとうつらうつらと瞼が重くなる。そんな時不意に「大枯野牛あらはれて完成す」や「梅雨の月一骨片に負荷多し」なんて句に出会うと、一気に目が覚める。写さなかった句の水準も高い。 西東三鬼の写した句を調べてみた。91句。同じ朝日文庫版でも、三鬼のは半分ほどが散文だから、比較はちょっと出来ないし、「好き」の質も違う。三鬼集に収録されてた句数を調べたいのに、部屋のどこに目当ての本が転がってるか分からない。楸邨には傾倒し、三鬼には憧憬す。子規山脈虚子軍団には反抗及び矛盾しがちの愛情を抱く。多く俳句を読む内詠む内形作られてきた自分の位置は大体そんな感じ。 15句選んでみた。 冬の鷺歩むに光したがへり わが凭りし冬木戦車の音となる 我に子にかの枯木星名はなくとも 蟇誰かものいへ声かぎり しぐれねば火星するどく露地の奥 皎々たるこの夜の冬木誰か死ぬ 笹鳴や全山の馬影を曳く 夢に父と枯木を見しが枯木立つ 焼夷弾爆ぜて枯木の形立つ 爆痕に鳩があそべり冬日さす 君知るや秋風に糞すら細し 梅雨の月一骨片に負荷多し 冬の傷の血がこんこんと月に噴く 霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び 大き枯野に死は一点の赤とんぼ 大枯野牛あらはれて完成す 「こがらしや女は抱く胸をもつ」「霜夜子は泣く父母よりはるかなものをよび」などの、以前写したことのある句は除いても、なかなか絞りきれなかった。大好きな「海底に何か目ざめて雪降り来」は、この文庫が出た後のもの。 朝日文庫 1984年 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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