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2012.11.27
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カテゴリ:ショートショート
ひょうたん.jpg

 実家から、小学校の同窓会のはがきがきていると連絡があった。40年ぶりの連絡だった。地元の小学校の裏にある、公民館での、地味な同窓会だった。二千円の会費だった。パックされたお寿司と煮物におしんこ、紙の皿にポテトチップや柿の種があり、ビール、日本酒、ウーロン茶が長テーブルの上に並んでいた。
 大西健吾はやはり来ていた。「ようっ!」と、手を挙げて余裕たっぷり、笑顔で挨拶してきた。立派な身なりをしていた。どこかの部長さんという感じだ。僕はきっと歪んだはにかみの表情をしていたに違いない。

 あの悲惨ないじめの記憶が昨日のように蘇ってきたのだ。大西健吾は転校生で、その頃には珍しくジーパンなんかを穿いて、いつも、流行りの洋服を着ていた。長い鉛筆をきれいに削り、セルロイドの筆箱は野球選手の写真が入った、皆が欲しがっていて買ってもらえなかったものだ。
 遠足や運動会では、豪華な弁当を皆に見せびらかして食べていた。俺の家は金持ちだと、ひけらかして、自慢していた。確かに、大西健吾の家は、その頃には珍しい洋館の大きな家だった。

 あいつを、いじめててやろう、あいつが地獄に落ちなければ、僕たちはいつだって、情けない気持ちで、暮らさなければならなかった。あいつは毎日俺たちを差別して優越感に浸り、誇らしい態度で、教室を闊歩していた。僕たちはいつも惨めな気持ちだった。厭らしい陰湿ないじめと同じだった。
 僕たちは大西健吾をいじめることにした。仲間外れにした。絶対遊ばないと決めた。御菓子をあげると言われても、ついて行かないと決めた。椅子の上にうんこを擦り付けた。下駄箱に蛇や蛙の死骸を入れた。体育の時間に大西健吾が失敗すると、皆で、ゲラゲラ笑い転げた。
 大西健吾の悔し涙をはじめて見た。いい気味だと、僕たちははしゃいだ。ようやく、あの奴隷のような嫉妬心に包まれた気持から解放されたのだった。

 黒い車が校門の前に止まって、髭をはやした堂々とした男が、校長室に入って、それから、僕たちは先生にこっぴどく怒られた。
 いじめなければいじめられる、いじめてもいじめられる、いじめたくていじめたのではない。いじめられたくないからいじめたのだ。ごめんと、あやまっても、絶対許さないという、にやにや笑いながら、僕たちを見下ろしていた。
 それから、また僕たちは大西健吾に劣等感を抱くいじめを受けていた。いじめられて大西健吾は、ますます強く優越感を教室中に振り撒いていた。いじめた記憶で、生涯暗い気持ちでいつまでも悩む僕たちがいた。

 同窓会はお通夜のように、静かに始まったが、お酒に頬が赤らむ頃になると、だんだん和やかに、賑やかになった。大西健吾は小学生の時のように、優雅に振る舞い、やがて、自慢話の花を満開にさせていた。そして、いつしか、誰もが触れたくないあのいじめの話になった。
「おう、そういえば、随分君たちをいじめたな、優越感が気持ちいいと教えてくれたのは、君たちだぜ。あれから俺は優越感の気持ち良さから、ずっと、抜けきれないで悩んでいるんだ。優越感がなけりゃ生きていけない自分が嫌で嫌でたまらないんだ。俺は哀れさ、いじめながら泣いてるんだ。いじめられたのは俺の方かもしれないな、今でも誰かをいじめ続けなけりゃ、生きていけないんだ、可愛そうな俺さ」
「僕たちも君をいじめたことをずっと、後悔してるんだ、君は絶対許さなと言ったからさ、いじめた僕たちは、ずっと後悔してたんだ。いじめられていた方がずっと楽ちんだったな」
「まあ、昔の話だ、でもなあ、いじめるのが辛いのか、いじめられるのが辛いのか、俺にはよくわからないよ」

 宴も、終盤にかかると、大西健吾は、用意してきたタッパーやビニール袋に残っていた、寿司や煮物、ピーナツなどを、さっさと詰めはじめた。「もったいないから、施設に届けてやろうと思ってさ!」大西健吾の優しさに、詰め物を手伝う女性もいた。施設で自慢し、優越感に浸りたいのだろうかと捻くれた目で見ていた、みんなもいた。

 同窓会が閉会し、長い小便でもたもたしていると、あっという間に、同級生は散ってしまって、僕は、青木幹夫と、公民館を出た。欅の木の暗闇で、大西健吾が、貧相なな女と、男の子に、「うまいぞ!ご馳走だ!」といって、さっきのつまみの残り物をあげていた。
「おなた、今日は何処で寝るつもりなの」
「おとうさん、一緒に帰ろうよ」
 女と子供は施設の人ではなかった。

 ポンと後ろから青木幹夫に肩を叩かれた。
「大西はな、会社が倒産して逃げ回ってるらしいよ、あいつらしく、大ぼら吹いていたけどな」
 軒下にぶらさがっている瓢箪と糸瓜、おんなじじゃないんだよな、いじめたのか、いじめられたのか、おんなじじゃないんだけどな。もう、同窓会に行くのは終わりにしよう。


作:朽木一空

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最終更新日  2012.11.27 13:29:40
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