|
カテゴリ:ショートショート
![]() そう確かに20年前までは、女性プロ棋士が男性プロ棋士に交じってタイトル戦を戦うなんてことは信じられなかった。それどころか、女流棋士という特別枠の中で、ある意味で見世物的に女流だけのタイトル戦を行ってきた。だから、例え女流三冠といわれる女流トップ棋士でも、男性プロ棋士の中に入れば最下位と言ってもよかった。いやそれどころか、まだプロ棋士(四段)になる前の修行場である「奨励会」の中でも、初段クラスに属する程度の実力しかなかった。 同じ女流棋士でも、囲碁のほうはタイトル戦には届かないものの、女流特別枠以外の通常対局でも男性と対等に戦っている。なぜ将棋だけは、それほど男女の実力差があるのであろうか。ひとつには囲碁に比べて将棋は、戦闘的でありなんとなく品の悪いイメージがあること。また男の脳は「右脳型」で女の脳は「左脳型」であるという性差によるという説もあるが、いずれにせよ女性の将棋人口が圧倒的に少ないことが起因していたことは間違いないだろう。 ところが冒頭に述べたように、20年前から急に女性の将棋能力が高まり、現在では七大タイトルのうち六タイトルまでが、女性たちの手に収められてしまったのだ。男性棋士が保持している最後の砦は「名人戦」だけであった。 この名人への挑戦者は、A級からC級2組まで5グループに分けられた順位戦の中で、A級同士のリーグ戦を勝ちぬいた者だけにしか与えられない。この仕組みがあるため、C級2組からスタートする新人が、たとえトントン拍子で昇段していっても、飛び級はできないため、名人戦の挑戦者となるまでには最短でも5年を要することになる。これが今まで女性棋士が名人位を手にすることが出来なかった理由であった。 だがそれも過去の話となり、ついに女性棋士がA級リーグを勝ち抜いて名人戦の挑戦者となったのである。そしてとうとう名人をカド番に追い込み、本日の対戦で勝利を収めれば、史上初の女性将棋名人が誕生するのだ。従って名人戦が行われるこの老舗温泉旅館には、かつてなかったほど大勢のマスコミ陣が押しかけていた。 それにしても、なぜ20年前に突然女性棋士が強くなったのであろうか。その理由は大きく二つに分類される。そのひとつは、男性たちのほとんどが大手企業のサラリーマン指向となり、余程の変人でもない限り自由業を目指す者がいなくなってしまったこと。もうひとつは、コンピューター将棋が圧倒的に強くなり、最強のプロ棋士といえども全く歯が立たなくなってしまったことである。 だがなぜコンピューター将棋が強くなったことと、女性棋士が強くなったことが関連しているのかと疑問を抱く人もいるだろう。それでもう少しこの件を掘り下げてお話ししたいと思う。 つまり、コンピューター将棋は、ただ強かっただけに留まらず、「先手必勝」という完全解を導き出してしまったのだ。そのためプロの将棋においては、解答の書いてあるパズルと同様、ほとんどゲームとして成り立たなくなってしまったのである。 そこで将棋連盟が考えたのが、未だかつてなかった歴史的なルールの改変であった。具体的には9×9=81枡の将棋盤を11×11=121枡に拡大し駒数も増やしたうえで、今まで前方にしか動かせなかった桂馬を横方向にも動かせるように大変革したのである。 ここまでルール、というより形態を変えてしまえば、もう全く別のゲームとなる。そして昔から積み上げてきた定石は全く役に立たなくなり、コンピューター将棋も素人将棋に逆戻りしてしまった。そしてその大幅ルール改変後に女性棋士の実力が発揮されるようになったという。これは今から30年後の嘘のような嘘のお話である。 作:五林寺隆 ※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。 またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。 ![]() にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.09.01 16:51:40
コメント(0) | コメントを書く
[ショートショート] カテゴリの最新記事
|