|
カテゴリ:ショートショート
私は狼女。そう狼男と呼ばれている獣人は沢山いるけど、狼女というのは珍しいでしょう。もっとも体中が剛毛に覆われていて、変身すると巨大化して服がちぎれて全裸になってしまうので、狼女より狼男のほうが都合がいいし迫力があるものね。 それに映画や小説で活躍している狼人間は、みんなオスなのだから狼男と言っても間違いではないわ。彼らは満月の夜に狼男に変身して人や家畜を襲う。そして最後は銀の弾丸で殺されてしまうというのが相場でしょ。 なぜ銀の弾丸だと狼男は死ぬのかと言うとね、銀には高い殺菌作用があるし、ヒ素化合物の1つである硫化ヒ素と反応して黒変する性質があるためらしいの。いずれにせよ、こうして今まで何頭もの狼男が銀弾の犠牲になってきたのね。 でもそれはオスたちが弱いからだったのよ。メスの私には、銀の弾丸なんか屁でもないし、実は本当の狼人間は狼女だけなのよ。つまり狼人間のオスは身体もそれ程大きくないし、寿命も犬と同様10年程度とかなり短いの。ただ産まれてくる割合だけは高くて、メス1頭が産まれるまでにオスは300頭以上産まれてくるらしいのよ。もちろんあくまでも推測だけどね。 またメスはオスより遥かに体力があり、体格もオスの2倍以上あるの・・・。さらにメスの寿命に至ってはかなり長寿で、一体どのくらい長生きするのか見当もつかないのだから驚きでしょ。現に私は300年近く生きているもの。 ここまでお話すれば大体見当がついたと思うけど、狼人間のメスはまだ私しか産まれていないのよ。だから仲間の狼男たちは、私のことをグレートマザーと呼んでいるわ。 まあ結局は女王蜂みたいな存在で、狼男たちはみんな私の子供たちなの。ただ私以外は未だかつて一頭もメスが産まれていないのだから、いま私が死んだら狼人間も絶滅しちゃうのよね。それに年を取るにしたがって、更年期障害というのかしら、だんだん発情しなくなってしまい、妊娠する機会もかなり減ってしまったの。 そもそも私が妊娠するのは、自分の子供である狼男とのまぐわいではなく、人間の男たちとのセックスなのだから誤解しないでね。いくら私が獣人だといっても近親相関は嫌だもの。だから産まれてくるのは、私よりひ弱なオスばかりなのかもしれないわね・・・。 えっ、それじゃあ、お前は一体誰から産まれたのかだって。実は私が狼女になる前は、『赤ずきんちゃん』と呼ばれる可愛い人間の少女だったのよ。もちろん『赤ずきん』の童話は知っているでしょう。童話とはちょっと違って、実はあの狼こそ初代・狼人間だったのかもしれないわ。おばあさんを殺して、その肉を私に食べさせたうえに、その大きく尖った歯で私に噛みついたのよ。ただおばあさんの肉で満腹になってしまったのか、噛みついただけで私を食べなかったの。 それが結局彼の命取りになったわけ。つまりおばあさんの肉を食べさせられた私の身体は、いきなり初潮を迎えて異常に反応しはじめたの。さらに狼人間に噛みつかれて狂犬病のような症状を併発して七転八倒したわ。そして不思議なことに満月の光を浴びると、私はなんと巨大な狼女に大変身していたのよ。そして近くで鼾をかいていた狼人間を、いきなり食い殺してしまったという訳。童話のように狩人がお腹を裂いたわけではないのよ。どう実に悲しい身の上話でしょ。 作:湯川和泉 ※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。 またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。 ![]() にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.06.03 11:04:53
コメント(0) | コメントを書く
[ショートショート] カテゴリの最新記事
|