カテゴリ:読書
よくラビ・バトラの本の翻訳をされている経済アナリスト:藤原直哉さんの本。
人智を結集して将来予測をしてもそれは当たらず、全く予想外の出来事により全然違う方向に進んでしまうことがよくある。でも、その思いがけない展開も、あとで考えると理に適っていたり、そうならざるを得ない、そうなるべき必然性があったことに気づいたことから、藤原氏は、「何か人知を超えた秩序、目に見える人間や自然界の動きを支配する、眼に見えない論理があるのではない」かといい、それを「天のシナリオ」と呼んでいる。 この本は2005年に刊行されている。その時点で藤原さんが「天のシナリオ」はこうなっているのではないか、と想定していろいろな問題につき書いている。ユーラシア大陸の一体化、中国の勃興と危うい未来、米国の凋落等々。全10章の中で特に藤原さんの弁に熱がこもっているのが第8章「日本の政治は『草の根』情報公開を頭に入れて読め」で、ここの部分に僕は共感する。 P.169 「政府自体が、これら勝ち組と同じように、世間に「勝ち」を認めてもらおうと躍起になっているように思えます。 しかしそれは間違いです。 政府は、そもそも勝ち組をめざすべきではなく、『負け組』になりそうな人を助けて『勝ち組』に入れるようにはからうべきです。 政府自らが勝ち組をめざせば、負け組のことを気にかけることすらなくなってしまい、負け組は忘れ去られてしまいます。 社会での勝ち負けは相対的なものですから、勝ちがあれば負けも必ず存在するのです。この『負けている元気のない人々』に活力を与えるのが、政府の本来の役目ではないでしょうか。 ここで政府が民間の争いに加わって勝ち組をめざすようなことをしたら、負け組はどうやっても這い上がることができません。」 この本刊行当時は小泉政権のときで、まさに小泉政権自体が世間に「勝ちを認めてもらおうと躍起になっていたように思え」る。後に小泉政権が日本社会の格差を大きくしたと非難の声を浴びることになるが、小泉首相と一緒に仕事をした竹中平蔵氏はそれをいつも強く否定して小泉氏を絶賛する。 しかし、ごく私的な印象でしかないけれど、竹中氏は小泉氏と肝胆相照らした仲で、心から相手を尊敬して・・・というようには見えない。同じ穴の狢がお互いに確かに実務処理能力は高い相手を利用しあっただけにすぎないように見える。小泉・竹中に日本国民全体を上に上げるという哲学はなかったと思う。アメリカと結んで自分たちが「勝ち組」に乗ることが第一義であり、坂本龍馬のような日本全体を想う心は見えない。 藤原氏の言葉を続ける。 「日本政府は、負け組をしっかりとサポートするという懐の深さを示して、国のためになる政治をするべきなのです。 見栄を張って我が身を飾るような政府では、けっして国のためにはなりません。 私がよく述べる『勝ち負け』とは、『その時代において成功したか否か』ということを意味しています。 たとえば、弱者から搾り取ったお金で会社を大きくしても、それは現代では長くは通用しない道理です。 その経営者は、競合他社には勝ったかもしれませんが、時代の流れを見れば負けたといっていいでしょう。 今の社会では、同業社同士の競争など何の意味もなさないほどちっぽけなことなのです。 もっと大きな視野をもって、世の中の役に立つこと、世界や地球にとって良いことを成し遂げることが『勝ち』なのです。 そんな『勝ち』を万人がめざすようになれば、どんなに住みよい社会になることでしょう。天のシナリオは、間違いなくそのような世界を求めていると思います。」 僕も全く同感。 このあとが面白い。この本の未来の地点に僕らがいるから振り返ってみて面白い。 「小泉政権の後継者として、麻生氏や高村氏や安倍氏といった面々が挙げられていますが、どの人が引き継いでも、小泉時代の流れから抜け出せないと思います。 小泉首相があれだけ豪語しても、どうにもならなかった改革ですから、あとはもう誰がやっても改革などできそうもないというのが私の意見です。 新生日本を築く人物として、福田前官房長官を推す声もありますが、政治の現実と社会の行き詰まりを十分理解している福田氏は、総理として指揮をとるつもりはまったくないのだそうです。 福田氏以外の総理候補は、米国型の競争社会を追いかけることに腐心していますから、小泉路線を脱却することは無理でしょう。 この際、小泉内閣の残影をひきずるのはやめて、日本社会の歪みを是正するためには、新しい風を吹き入れる人物でなくてはなりません。 それには、何もかも知り尽くして政治の第一線から退いた福田氏が、もしからしたら斬新な新生日本をリードしてくれるかもしれないと思います。 もしも福田氏が日本の政治の陣頭指揮に当たれば、昭和と平成時代の悪い部分の幕引きをして、誰もうまく対処できなかった『長きにわたる敗戦処理』を、国際的視野から丸く収めてくれるのではないかと、私はひそかに期待してます。」 事実は小泉さんの後を引き継いだのは小泉さんも支援した安倍さんだった。「美しい国」を掲げて小泉路線とは違う方向に舵を切ろうとしたのかもしれないが、インド洋の燃料補給の件で民主党の協力を得られず、米国の怒りをかうことに怯えたのか突然辞めた。その後、どうしてもと請われたのだろうか、福田さんが首相に就任。「何もかも知り尽くして」いた福田さんは、小沢民主党との大連立を組まなければこの先進めないと腹を決めていたのだろう、その大連立が組めなくなって福田さんも辞めた。そして、麻生さん、鳩山さんを経て今は菅さん。 この章の題にある「草の根」市民運動の出身の菅さん。参院選での惨敗で若干苦しい立場にはあるが、「天のシナリオ」の方向上にはいるのかもしれない。 あとこの本では将来の日本のあり方として国民皆農業で最低限の自分の食糧は自分で生産すること、各地方が各地方にあった衣食住を打ち出して新たな「観光」産業を立てることを提言している。これも実際的な提言だと思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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