「八月の六日間」の謎
先日、このような新刊本を紹介するメールが届いた(日常的に複数こういうメールが届くようになっている)。北村薫の新刊本である。それだけならば、文庫本になるまで待つしかないと直ぐに削除しただろう。しかしその本の内容に驚いた。献本応募用のメールなので詳しい紹介文が載っている。これを読んで、普通の北村薫ファンならばあっと思うはずだ。
忙しさに心が擦り減る毎日でも、“そこ”ではわたしを取り戻せる。
不器用編集女子が山から貰った<非日常>と<不思議な縁>とは......—
40歳目前、文芸雑誌の副編集長をしている“わたし”。
元来負けず嫌いで、若い頃は曲がったことには否、とかみついた性格だ。
だがもちろん肩書がついてからはそうもいかず、上司と部下の調整役で
心を擦り減らすことも多い。
一緒に住んでいた男とは、……3年前に別れた。
忙しいとは《心》が《亡びる》と書くのだ。
そんな人生の不調が重なったときに山歩きの魅力に出逢った。
山は、わたしの心を開いてくれる。四季折々の山の美しさ、恐ろしさ、
様々な人との一期一会。
いくつもの偶然の巡り会いを経て、心は次第にほどけていく。
だが少しずつ、しかし確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、
わたしはある思いもよらない報せを耳にして……。
『八月の六日間』
著者:北村薫
発売日:2014年5月30日 定価:1,620円(税込) / 四六判上製
この「わたし」という一人称の主人公に読み覚えがある。北村薫のデビュー作「空飛ぶ馬」から始まる《円紫さんと私》シリーズの日常の謎を解く傑作の数々。その第五作「朝霧」において、「わたし」は編集者に成って終わった。あれから十数年しか経ってないから40歳目前というのは勘定が合わないけれど、「空飛ぶ馬」の高校生が89年刊行だったことを考えると、勘定が合う。《円紫さんと私》シリーズがまた始まるのか!と考えるとこの本は直ぐに読まなくてはならないだろう。
しかし、である。いくら出版社が変わっているといっても、新刊本の紹介の中にそのことに全く触れられていないのである。念のために、他のいくつかのサイトを巡ってみたが、どうやらこの本は「本格的な山女小説」という位置づけらしい。もちろん「円紫」の言葉は一言も出てこない。《円紫さんと私》シリーズの特徴である「本を巡る謎」は出てこない可能性がある。
私は、これだけ「設定」が類似していて、作者が《円紫さんと私》シリーズを無視するはずがない、と「推理」する。何処かに「謎」が仕掛けられているはずだ。よって早めに読んでみようと思う。昨日段階で、図書館に予約したならば、まだ購入していないのにもかかわらず私は予約の二番目でした。