「岳飛伝13」おまえはこれでよかった、と言ってくれた
「岳飛伝13」北方謙三 集英社文庫「一度だけ、申し上げておきます、総帥。大きな戦いの前ですし」戦死するかもしれないので、言っておくということだった。秦容は、黙って次の言葉を待った。「俺はここへ来て、よかったよかったと思っています。できるだけ、心を動かすまいとしてきましたが、人が生産をして生きていくことが、これほど素晴らしいと、ここへ来なければわからなかったでしょう」恒翔が、ちょっと笑顔を見せ、腰を上げた。秦容も、立ちあがった。「礼を言う、恒翔。この地で、森を拓き、土を耕しながら、自分はここでなにをしているのだ、と何度も考えた。これでよかったのかと。いま、おまえはこれでよかった、と言ってくれたような気がする」(227p)戦いが少なくなって、面白く無くなった。と感じている読者は多いと思う。けれども、町つくり、国つくりを戦いだとするならば、岳飛伝は、大きな戦いの連続であり、間違いなく岳飛ではなく、秦容がこの作品の主人公だった。楊令が始めた国つくりを、長いことかけて、梁山泊の若者や岳飛たちが、反芻して作り上げていった。岳飛伝とは、そういう物語である。替天行道も盡忠報国も、「民のための国をつくる」その一点で、結局は同じだった、と秦容と岳飛が話し合う場面がある。大きな戦いの前に、この大河物語のテーマがさりげなく示される。2017年11月読了