ワーキング・ホリデー
息子と過ごすために、ホストから「ハチさん便」ドライバーへ。正義感の強い元ヤンキー父とおばちゃん臭い少年のハートフルな物語――夏のある日、ホストクラブで働く元ヤン・沖田大和のもとに、突然、息子と名乗る小学五年生の進がやってきた! 息子の教育上ホストはよろしくない、と大和は昼間の仕事である宅配便のドライバーへ転身するのだったが……。正義感溢れ、喧嘩っ早くて義理人情に篤い大和。家事にたけて口うるさい、おばちゃんのような中身の進。仕事や仲間を通して、二人は絆を深めてゆくが、進の夏休みも終わりに近づいて……。
大和の燃える「ハチさん便」が、爽やかで心地よい読書をお届けします。 (内容紹介・文藝春秋社HPより)
坂木司の新作『ワーキング・ホリデー』は、宅配仕事に滝の汗を流す大和と、家庭が再生することを願って主婦業をこなす進の、暑い夏休みの物語。
まさに暑い、この夏休みに読むのにぴったりの一冊でした!
舞台の宅配業者はその名も〈ハチさん便〉、表紙はロゴ入りの段ボールの写真です。毎回坂木作品の装丁をしている石川絢士氏のデザインとのことですが、とてもナチュラルなイメージです。
ホストあがりの肉体労働ヤンキーに、はてこの表紙の色合いは…?
オープニングいきなり、きらびやかなホストクラブ。語り手がそこに誰かを訪ねて行くところから始まります。
ホストであろうとなかろうと、いきなり小学生があらわれて自分のことをお父さん、と呼んだら驚きます。何か仕掛けがあると警戒もするでしょう。しかしこの主人公・沖田大和はとまどいながらもその少年の言葉をすんなり信じるのでした。事情を聞いて思い当たる節があったらしい。それもかなり痛々しい思い出が。
訪ねてきた男の子の名は進。死んだと聞いていたお父さんがもしかすると生きていて、それがこの人なのでは、と一人で推理して訪ねてくるあたりからかなりのしっかりもの。しかも節約上手の料理上手で礼儀正しい。大和はますますある女性のことを思い出して納得、なのです。
ホストの世界に身を置いているとはいえ、大和、仁義に篤い男のようです。さらにオーナーのジャスミンさんも酸いも辛いもかみわけた情がある人。
同僚の面々も同様です。
このあたり、かなり坂木ワールドです。
これまで、坂木作品を読んでいて、ひっかかりを感じることが少なくはありませんでした。
登場人物のかたくななのを語るのに、そこまで型をはめなくてもよいだろうと思ったり…例えば、「お取り寄せ」好きな理由や、あるいは屋外でものを食べるのが好きな理由を、人格形成の過程に求めて、いちいち説明しなくてもいいだろうと思ったのですね。
そのほかにも、大腿部にやけどをした女性がスカートをやめてパンツルックにするだろうか、と疑問に思ったり。
ちょっと不自然な感じのする箇所が、なきにしもあらず…でした。
それが『シンデレラ・ティース』(感想はこちらです)からはあまり気にならなくなりました。
主人公の一人称の語りも、今風の言葉が使われていますがとても自然で読みやすいのです。
いつの間にか、こんな人たちが暮らすこんな町が、近くにあったらいいのに、と思わされています。
大和のことも、応援し続けたい、見守り続けたいと思うようになっていました。
配達中の大和に差し出されたタオルは、<新井クリーニング店>の名入りでした。取引先の会社から出された「壊れ物注意」の小荷物のあて先は…あの人です!(読んでのお楽しみ!)
『切れない糸』の感想(こちらです)でムーミン谷のようだと書いた坂木ワールドですが、その心地よさは本作でも続いているのでした。
このあと坂木作品は9月に角川書店から『ホテルジューシー』(これは『シンデレラ・ティース』の主人公サキの友人の話のはずです)、
12月に双葉社から『先生と僕』が出る予定とのことです。
この文藝春秋刊『ワーキング・ホリデー』とあわせて3冊の初版帯についたマークを集めるキャンペーンがあるとのことなのですが、
出版社を跨いだこういうキャンペーンって、よくあることなのでしょうか?
(私は驚いているのですが…)
坂木ワールドはどこへ行っても繋がっている、と言われているようで、嬉しくなってしまいます。
ところで、沖田大和――ホストの源氏名は「ヤマト」です――に、進。
そう来たら…やっぱり。進のお母さんの名前は由希(ゆき)子、でした。
本文中には出てこないけれど、進の苗字は「森」じゃないかと思います(笑)