27日、参院本会議で「改正」郵政民営化法が採決され、可決成立した。これは、バラマキスト民主党が、既得権を護持したい郵便局長たちの政治団体「全特」の支持を受けている連立相手の国民新党との約束で、バラマキスト民主党政権が発足以来、国会が開かれる度に提出していて、しかし店ざらしに遭い、流産し続けていたものだ。
◎公明党主導で3党共同提出に参院自民からは1人の反対者も出ず
今回、成立した「改正」郵政民営化法は、公明党が日和ってバラマキスト民主党政権案に近い改正案をまとめ、最初は反対していた自民党がそれに引きずられて賛成に回り、3党の共同提案したものだ。
05年の郵政解散は、小泉政権の金字塔だった郵政民営化法案が参院の反対多数で否決されたために行われ、自民党内の郵政民営化反対者には刺客まで送られた末に、自民党が圧勝した経緯がある。今回、参院自民党からは、小泉改革の1丁目1番地だった郵政民営化を骨抜きにしかねない法3党共同提出の「改正法」、すなわち改悪法だったのに、1人の造反者も出なかった(丸山和也議員が棄権しただけだった)。
これにより、持ち株会社の日本郵政の下にぶら下がっていた窓口業務の郵便局会社と集配業務の郵便事業会社が合併して日本郵便会社となり、持ち株会社も含めて現在5社の日本郵政グループが4社体制に再編されることになる。
◎金融2社も事実上のユニバーサルサービス義務づけ
改悪法で最も問題なのは、持ち株会社の日本郵政と新発足する日本郵便会社に、全国遍く事業を行うという「ユニバーサルサービス」が義務付けられたことだ。金融2社の「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」には義務づけられていないが、小泉郵政改革で義務づけられていた金融2社の2017年9月末までの全株民間売却が期限を定めない努力目標に後退したことにより、事実上、金融2社もユニバーサルサービスが義務づけられたに等しい。
これにより、民間にできる国営事業は民営化するという自由経済の原則が曲げられたほか、日本郵政が「第2の国鉄」に陥るリスクがさらに高まったことになる。
例えば、現在の郵便事業会社である。郵便物は、電子メールの普及で年率3~4%、恒常的に減っている。2010年に日通のペリカン便を吸収した宅配便事業は、遅配などの問題を起こして信頼を失って以来、ヤマト運輸と佐川急便に大きく水を開けられている。宅配便事業の不振で、郵便事業会社は2期続けて大幅赤字を出した。
郵便局舎を金融2社に貸して安定した収益を得ている郵便局会社と統合して、目先の赤字は取り繕えても、このトレンドは変わらないから、良くて低収益、悪くすれば通年赤字が定着するだろう。
◎需要見込めない金融2社の株式放出
すると公明党が当初目論んだように、一刻も早く日本郵政株を売却して東日本大震災復興費に充当しようという狙いは、捕らぬタヌキの皮算用になる。
収益源のゆうちょ銀行とかんぽ生命は、恒常的に残高減少し、収益がじり貧化しているから、常に「成長」を求める株式市場のニーズに全く合わない。NTTやJT、JR3社のように、株式を放出しても、需要は見込めないことになる。
改悪法では、持ち株会社の日本郵政が金融2社の過半数の株を放出すると、両社は総務省への届け出だけで新規事業をできることになっているが、そもそも株の売却が見込めないうえに、民間のメガバンク、メガ生保すら貸出しが伸びずに、やっと国債で利益を出し、海外展開で利益を稼ごうかという段階である。
となると、貸出しのノウハウが全くない金融2社が、何で食っていくというのか。せいぜい従来どおりの国債保有で利子収入を得るだけ、となる。
◎国債頼みで、数年先に国債下落したらどうするのか?
全銀協など民間銀行業界はこのことをよく知っているから、今回の改悪法に対しては、ただのとおりいっぺんの批判声明を出しただけで、かつてのような激しい拒否感を示さなかった。どうせシロウト、オレラの敵ではない、と見くびられているのだ。
そのうえに前述したように、ゆうちょ銀行の貯金残高も、かんぽ生命の契約高も漸減している。利子収入自体、今後もどんどん減っていくことになる。
収入先細りどころではないかもしれない。赤字国債の積み上がりで、数年内に金利上昇・国債価格下落は避けられないからだ。マーケットは時には行き過ぎることもあるから、金利上昇・国債価格下落程度で済まず、金利急騰・国債価格暴落を起こすかもしれない。ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアの例を見れば、ないと言い切る方が難しい。
そうなると、金融2社は巨額の損失を出すことになる。2017年9月末までに金融2社を100%民営化していれば、巨額損失で経営が揺らいでも、リスクは民間に移転されているから国の負担はない。ところが、少なくともこの頃まで確実に株を民間売却できていないから、損失は国民負担になって乗りかかることになる。株式放出で儲けられるどころか、税金投入の恐れが濃厚なのだ。
これが、「第2の国鉄」シナリオである。
◎いずれ郵政再改革ではもう遅いのだが
そして改悪法を成立させたことによって、日本はアメリカから非難を受ける立場になる。TPP参加に当たって、アメリカとの事前交渉で、アメリカ側から暗黙の政府保証の残るかんぽ生命が不公正だと批判を受け、改善を突きつけられている。他に、アメリカからは牛肉と自動車の2分野で市場開放要求を突きつけられているが、かんぽ生命の問題が最も難題となる。
経営面も含めていずれ二進も三進もいかなくなって、あらためて郵政再改革は不可避となるだろう。ただその間に失った時間のために国民負担させられることに、バラマキスト民主党と公明党、そして変節した自民党は、責任を負わねばならない。
写真は、改悪法が参院通過した後に記者会見する過去官僚の日本郵政社長の斎藤次郎。
昨年の今日の日記:「漂流してどこへ行く? 東京電力の行方 3:国栄え、金持ち被災者は救われても、個人株主は救われない矛盾」