旅の人　うちのラム酒は最高だよ！

高校生のころ、よく入り浸っていた場所がありました。

入り浸っていたというと、聞こえはよくないですが
田舎育ちなため、いかがわしい所ではなく
地元の小さな自転車屋さんに、友人たちと放課後集まって
店主のおじさんと、他愛もないバカ話をしていました。

そのお店は、おじさんが経営している…というわけではなく
おじさんはあくまで雇われの人。
中学校を卒業して以来、ずっとそのお店で、働き続けていました。

小さな町なので、それほど自転車修理の仕事があるわけでもなく
一日に数人程度のお客さん。

なので、バイク修理をしたり、電報の配達をしたり
近所の人から、山の手入れをして欲しいとか電化製品を修理して欲しい…
なんて仕事も引き受けている人でした。

非常に楽しい人なので、ほぼ毎日のようにお店に行っては
あれこれと、他愛のない話をして過ごすのが日課になっていました。


高校を卒業して、大学へ進学するため引越しをすることになった日の前日。
最後の思い出にと、お店へ挨拶に行きました。
いつもどおり、お客さんはおらず、店の奥で薪ストーブの前に座り
雑音の入ったラジオに耳を傾けるおじさん。

その後、いつもと変わらないバカ話をして、最後の挨拶をしようかな…とした時

「働くっていうのは、どんな仕事でも大変だよ。
　おじさんの仕事は楽に見えるかもしれないけど、それでもそれなりに苦労はあるんだから
　働いて、お金をもらうって言うのは、楽なことではないんだよね…」

と、おじさんがつぶやきました。

いつもバカ話しかしていない、おじさんの口からそんな言葉が出てくるなんて驚きましたが
おじさんなりに、自分へのメッセージだったのだと思います。

あれから行く年月が流れ、自分が働いてお金を稼ぐようになって
あの時のおじさんの言葉を、日々実感しています。

罵られ、ダメを出されて、サービス残業は当たり前…
色々な労働環境がありますが、みな必死で働いているのです。

ひとつの仕事を続けるという、当たり前のように思えることにも
とんでもない忍耐力が必要だということもよくわかりました。

生まれ育った町からは、両親も引っ越してしまっているので
ひょっとしたら、自分の人生で二度と訪れる機会はないかもしれません。

でも、今でもふと、あの頃の楽しかった日々を思い出します。