『切支丹の里』
遠藤周作『切支丹の里』人文書院、1971年。 八つの作品が収められた一冊。『沈黙』が執筆された背景、作家の思いがよくわかる。八つの内、「父の宗教・母の宗教」は、作者の隠れ切支丹に関する考えを記したもので、残る七つは、実際に長崎を訪問しての紀行文。なお、七つの内の「雲仙」は、能勢という人物による紀行文という形をとった小説と言うほうが正確か。よく読むと、『沈黙』執筆の準備のための旅に関して記した作品と、この小説が刊行された後の再訪を記述したものとがあることがわかる。しかし、七つの作品の初出情報が記されていない(付記)。担当編集者の、本作りに対する姿勢(志の低さ)には呆れる。 [付記]「雲仙」に関しては、「雑誌『新潮』に発表された」との註がある(おそらく人文書院が付記したものだろう)。しかし、長濱拓磨「遠藤周作論―「弱者」の形象―」(Kyoto University of Foreign Studies, Kyoto Junior College of Foreign Languages (88):2016,63-77. “core.ac.uk”に公開されている。)には、「雲仙」については“「世界」1965・1”とある。人文書院は初出情報すら誤記したのだろうか。[さらに付記]国立国会図書館のデータベースで調べると、「雲仙」は「世界」誌1965年1月号に掲載されていることが判った。やはり人文書院の「註」は、誤りであろう。