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カテゴリ:フランス料理の文化と歴史
フランス料理において「辛味調味料」と呼ばれるものはさほど多くありません。
辛いと感じるモノはコショウとマスタードですね。そしてカイエンヌ・ペッパーぐらいがあるのですが、辛いと感じられるほど料理の中に加えられることは少ないようです。 これは歴史というよりも「風土」にその違いがありそうです。 スパイスが多く採取されるのは、インドや東南アジア。いづれも一年を通じて比較的暑い日が続く地域です。 この地域においてトウガラシほかの「辛味成分」を嗜好するのは主に3つの理由が挙げられると思います。 まず第一に、保存の問題です。肉類などの保存にあたり、気温の高い地域では保存に注意を払わねばなりません。辛味成分の多くはがわずかながら長期の生肉などの保存には有効なのと、また、いわゆる「臭み」消しとして効果的だからです。 ふたつめに、食欲を刺激する効果。誰でも暑くなると食欲が減退します。辛味成分は胃の活動を活発にするため、食欲を増進する効果が認められます。 そして、発汗の効果。辛いものを食べると自然に汗が流れてきます。汗をかくことは、外気の気温が上がった時に、体温の上昇を抑える目的があります。 このような風土の違いから、寒い地域ではあまり辛い食べ物は必要がありませんでした。寒い地域とはヨーロッパのほとんど、ロシアですとか、ドイツ、そしてフランスなどに顕著です。 コショウ、マスタード、カイエンヌペッパーについては、肉食に対するアクセントとしての使用が多いと思われます。そのため辛くなるほど多くは加えません。肉の「脂」が、口の中に風味として残りますので、赤ワインの渋味と同じ効果、すなわち、「脂を流す」事を目的に使用されるものと思います。 イタリア料理店における「タバスコ・ソース」の扱いについては、そもそも日本にイタリア料理が入ってきた時にアメリカを経由したことが発端であると思われます。 現在より30年あまり前には、イタリア料理といえば「スパゲティ・ナポリタン]「スパゲティ・イタリアン」そして「ピッツア」こういった料理がイタリアンと呼ばれていた時代があったので、現代のようなピエモンテとナポリ、サルデーニャの差異などあまり問われませんでした。 「イタリアンにタバスコ」はアメリカナイズされた、日本の西洋食文化の名残りでは無いでしょうか。 辛い食物に抵抗が得に無いと思われるのは、現在の25歳から30歳の年代の人々。この世代は中高生時代に「激辛ブーム」がありました。感覚が鋭くなってきた時期に、辛いお菓子などを多く口にしたであろうことは容易に予想されます。そのため、昭和40年代生まれとと50年代生まれを見分けるのは辛いモノを食べさせてみるのもひとつの手です。 実はフランスにも激辛ブームはありました。 それはルネッサンスの以前、1600年前後の時期、貴族社会華やかなりし頃で、ちょうどマルコ・ポーロが東方見聞録を著した時代と重なります。 当時のレシピをひっくり返してみると、現代では考えられないようなスパイスの使い方です。このレシピに従って料理を再現するとすれば、とてもとても辛くて美味しそうには見えません。 しかし、当時の貴族達はこういった料理を美味しいと「思った」に違いありません。なぜなら、スパイスを多用するということは、招いた側の貴族の豊かさの主張でもあり、料理そのものがとてつも無く「高価」なものとなったからです。 しばしば見られるのですが、近年のワインブームからワインを嗜好されたお客様の中には、ワインに対して非常な「濃さ」と大変刺激的な「渋味」を求められるお客様があります。 「とにかく重いワインを下さい」 と注文される場合のほとんどが刺激的な渋味を持った濃いワインをご所望です。 「重いワイン」だから、ジェロボアムやレオボアム、商品が無い時はとりあえずマグナムで勘弁してもらっているのですが、、、え、「重い」違い? そもそもワインをのみ始めた時に、「高級な」ワインがそういったものだと誰かに教えられたからです。 こういったケースについての考察は、近いうちにまたお話しようと思っていますが、数ある動物の中において、人間だけが食に「美味い」「不味い」を求めます。 しかしその「美味い」「不味い」は普遍的な感覚の上に成り立つものではなく、 「こういうのを『美味しい』っていうんだ」 と教えられた記憶によるところも大きいのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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私のところでもそういうご注文が多いです。
ところではじめまして、いつも読ませていただいています。東京武蔵野で飲食業についているものです。 勉強になることだらけです。 (Jan 18, 2006 04:33:18 AM)
フレンチやイタリアンもそうですが素材を生かした料理には味を追加する調味料より味を生かす調味料が似合う。
洋食は料理人が考えた完成料理を提供する。その他の料理のほとんどはお客様自身で好みの味にして食べる傾向がある気がします。 塩派、ソース派とか味派閥が洋食にありますでしょうか?調味前に「バルサミコソースで…」のような要望はあるかもしれませんが提供後にソース・調味料の選択は料理人の意図がない限り聞いたことありません。 食べ方の意図の違いでソースや調味料が各国での発達の仕方が違う気がします。 見当外れなコメントでしたら失礼!フレンチにおける辛味調味料のお話ありがとうございます。 なんだかこういうのってブログの楽しいとこのひとつですね (Jan 18, 2006 09:52:01 AM)
高松妻さん
ありがとうございます~! お元気でしたか?私の方は現在、暗礁に乗り上げた人生を送ってしまいそうです~。 ブログ始められたのですね。こちらも楽しみにしています。 これからもよろしくおねがいしますぅ! (Jan 20, 2006 01:01:59 AM)
oldcastleB1さん
ご訪問&書込みありがとうございます。 「重いワイン」についてのお話は面白い例がありますので、また近いうちにお話させていただけると思います。 ご同業者の方なのですね。こちらこそどうぞよろしくお願いします。 (Jan 20, 2006 01:05:51 AM)
sassicaiaさん
いつもありがとうございます。 > >見当外れなコメントでしたら失礼!フレンチにおける辛味調味料のお話ありがとうございます。 > いえいえ~、おっしゃる通りです。洋の東西で「料理」と言うものの概念がそもそも違うんでは無いかと、、、 うんうん。そうですよね~。 (Jan 20, 2006 01:14:32 AM)
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