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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:ブロガー試写会
客入りはほぼ満席、客年齢は高い。今回は「yahoo!映画」ユーザーレビュアーとして招かれました。
十三人の刺客 オリジナル・サウンドトラック 映画の話 幕府の権力をわが物にするため、罪なき民衆に不条理な殺りくを繰り返す暴君・松平斉韶(稲垣吾郎)を暗殺するため、島田新左衛門(役所広司)の下に13人の刺客が集結する。斉韶のもとには新左衛門のかつての同門・鬼頭半兵衛(市村正親)ら総勢300人超の武士が鉄壁の布陣を敷いていたが、新左衛門には秘策があった。 映画の感想 素晴らしい作品だ。ある意味、三池崇史監督の到達点といえる作品だ。三池監督が時代劇を演出するのは02年の「SABU~さぶ~」以来なのかな?映画を見る前は些か不安があったが、映画が幕を開けて直ぐに、その不安は吹き飛ぶ位にしっかりと腰をすえた世界観に、あっという間に映画の世界に引き込まれた。ただ、本作は注意が必要だ。映画にはタイトル以外のスタッフ&キャストのテロップが出ないので、事前にキャストの名前は把握した方が良いだろう。御馴染みの俳優達が大挙して出演しているが、男優はまげに揃いの着物姿だったり、女優も眉毛なしの白塗りだったりで、誰が誰だか判り辛いのが難点だ。私の様に予備知識なしで映画を見る観客には、エンドロールを見て後から「あ~っ、あの人が演じていたんだ・・・」と判る次第である。オリジナル版は未見です。 以下ネタばれ注意 映画は暴君となった藩主に対して抗議の自殺をする家老の姿が映し出される。ただごとでは無い状況を観客にアピールする力強い幕開けだ。暴君となった藩主・松平斉韶を演じるのはSMAPの稲垣吾郎だ。映画冒頭では稲垣と気づかない位の傍若無人ぶりが凄い。よく稲垣がこの汚れ役を引き受け演じきったものだ。映画はしばらく薄暗い屋敷の中で斉韶が行った悪行が次々と明かされ観客は凍りつく、斉韶の徹底した悪行を見せ付ける監督の演出が冴える。このままでは国存亡関わると幕府から隠密に斉韶の暗殺が役所広司演じる島田に命じられる。 島田が斉韶暗殺の為に刺客が集められるが、この辺の件は黒澤明監督「七人の侍」や、そのリメイクとなるアメリカ映画「荒野の七人」と共通するもので、島田が丁度「七人の侍」の志村喬あり、「荒野の七人」のユル・ブリンナーの様な役回りだ。刺客でフィーチャーされるのが剣術の腕が長けた浪人を演じた伊原剛志だ。ジャパンアクションクラブ出身の伊原にとって本作の浪人役は“水を得た魚”的な役柄で、大柄の体に切れの良い殺陣が決まる。そして「クローズZERO」シリーズに引き続き三池作品で主役を張るのが島田の甥を演じた山田孝之だ。彼を筆頭にこれからの日本映画を担う若手が刺客として出演している。高岡蒼甫、石垣拓磨、波岡一喜らに加え、途中参入してくる山の民を演じた伊勢谷友介が異彩を放ちまくるキャラを演じている。彼のキャラは本作の中で一番三池作品らしいキャラで、彼の存在が緊張する物語の中でガス抜きとなる。 刺客集めに続いて、斉韶の道中で帰国に立ち寄ると思われる落合宿を丸ごと買い叩き、要塞化して罠を仕込み斉韶暗殺計画が実行されるクライマックスの50分が凄まじい。宿屋に着いて、まず斉韶の側近・半兵衛が下見に行くと女子供が日常生活を送るのどかな日常が目に入るが、それは島田が仕掛けたトリックだ。まんまと島田の罠にはまった斉韶とその部下たちは要塞と化した落合宿に足を踏み入れてしまう。この島田が仕掛けたトリックは本作でも秀逸なシーンで、嵐の前の静けさを上手く現した描写であり三池監督のセンスが光る。 13人の刺客に対して敵は300人超の戦は、鳥肌が立ち、目頭が熱くなる位に大迫力の連続である。橋の爆破に始まり、宿屋の爆破、火のついた牛の暴走、刺客たちは宿屋の屋根から弓矢で敵を狙い撃ちにして次々と侍を仕留めてゆく。刺客側圧倒的有利と思われた戦は、斉韶にもてあそばれ四肢と舌を切り落とされた女性が書いた「みなごろし」の文字を合図に刀を使った剣劇に変わり、多勢に無勢状態の刺客の劣勢状態に陥り、土と泥と血まみれの刺客たちは体力の限界となり次々と命を落とす。 刺客の死に様も様々だ。切り殺される者、刺し殺される者、爆死など刺客一人一人の死に様が丁寧に描かれる中、伊原剛志の死に様は壮絶だ。刀を失い道に落ちていた石を拾い相手を撲殺する描写が、死に際になった仲間の刺客の視線で描かれる。地面に横たわる刺客の視線を再現する為にカメラも横に倒れローアングルから対象者を捉える。横長のシネスコスクリーンを横向きに撮影したフィルムは丁度70年代東映実録ヤクザ物を見るようであり、オマージュかもしれない。オマージュと言えば東映時代劇や実録ヤクザものに数々出演してきた松方弘樹も素晴らしい殺陣を披露している。やはり本作は東宝作品であるが三池監督の中には昔見た東映作品のDNAが受け継がれているのだろう。 壮絶なラストまで緊張の糸は一瞬も途切れない。最後の最後にあの人が生きていたのは腑に落ちないが、時代劇が苦手な私が見てもエキサイティングな描写の連続には素直に拍手を送りたい。90年代からビデオ作品を中心に活動していた三池監督が、数々のメジャー作品を監督している内にここまで凄い作品を監督する人物になっていたとは正直驚いた。本作は万人にお勧めできるエンタメ作品に仕上がっているし、映画ファンであれば見て損は無い作品である。 映画「十三人の刺客」関連商品 十三人の刺客 十三人の刺客 十三人の刺客 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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