カテゴリ:生活雑記
< 自慢話 >
私が進もうとした道は行きどまり。そんな道が幾つかあったが、いずれも短いため直ぐに気づく。右手に廻ると低木の陰に頂上への道が隠れていた。やはりここは頂上ではなかったようだ。緩い坂道を登ると、間もなく標高1172mの頂上へ出た。スタートしてから約1時間半で登った計算だ。だが折角の頂上は、木々に囲まれて視界が悪い。 左手に行けば眺めが良い場所があると聞いて、北泉ケ岳方面に向かって歩き出したが、間もなく引き返した。別なルートを下山しながら休もうと考え直したのだ。選んだのはカモシカコース。最後はスキー場のゲレンデに出るようだ。バスの終点付近のため、多分最短コースになると思う。ここならバスに乗り遅れる心配は少ないはず。 ところがこの道はとんでもなく急な道だった。岩が多く、土の部分は滑り易い。足元への注意に加えて、転ばないよう適当な立木や草を掴みながら下りるのはとても疲れる。おまけに視界が木で塞がれ、休める場所も少ない。下から登って来る人を、狭い道の脇に寄って避ける。暫く下りた所で休憩し、水を飲んだ。勢い良く水を飲む妻に、飲み過ぎないよう注意する。 時間内での下山は可能だろうが、途中で何が起こるか分からない。用心のため、最後まで飲み水は確保しておく必要があるだろう。私が必死なのだから、体力の劣る妻はもっときつかったはず。それを半ば無視しての下山だった。6月に開催された第1回のトレイルレースでは、確かこのコースを下山したようだ。キャラバンシューズでも滑るのだから、ここを走って降りるのは、到底無理だと感じた。 幾つかの分岐点を経て、ようやく中腹の「岡沼」に到着。山道から草原へ出たせいか、全く違う風景が目の前に。「あれっ?ここは前にも見たことがあるぞ!」。私は心の中でそう叫んだ。初めて通った道だとばかり思っていたが、独特の雰囲気には見覚えがあった。多分大学の後輩と一度下りたのだろう。 スキー場のゲレンデに出ると、視界が急に広がった。だが急なこう配で、岩だらけの道とは違った厳しさがある。粘土質の道は滑り易く、注意していたもののとうとう派手に転倒してしまった。後を見ると、ズボンの尻が赤く汚れている。離れて歩いていた妻は必死で、私が転んだのを知らなかったようだ。 何とかゲレンデの下まで辿り着くと、パラグライダーの翼を畳む人。雪の降らない期間は、パラグライダーの練習場にでもなっているのだろうか。休憩所に立ち寄り、トイレと給水。そしてバス停の位置を確認後、遅い昼食を摂った。苦労して入手したお握りには4つとも鮭が入っていた。冷たいお茶とグレープフルーツが美味しい。 バス停に行くと、既にアフリカの若い女性が並んでいた。1人の老人が私にカードを見せた。この山に登った記録のようで、今年は既に70回を超したとか。アフリカの女性はこの爺さんと一緒に北泉ケ岳経由で下山したようだ。敬老パスを持つ70歳以上の老人はバス代が無料のため、トレーニングを兼ねて週に2、3回は登山してるのだとか。 登りの途中に聞こえた「登山70回云々」の声の主は、この爺さんだったようだ。どうも自分の元気さを自慢したかったのだろう。初めはスポーツジムでベルトの上を走っていたそうだが、それに飽きて登山へと転向した由。そこで私もお返し。「先日蔵王エコーラインを越えて、山形の蔵王温泉まで74km走ったんだよ」。それ以降、爺さんは急に静かになった。 秋晴れの一日は良い登山日和だった。私達夫婦の次の登山予定は来月の10日。そして登る山は宮城、岩手、秋田の県境に聳える栗駒山。ここも学生時代に何度か一緒に登ったことがある。きっと美しい紅葉が見られるのではないか。頼りない中高年登山者の端くれだが、何とか頂上に立って見たいものだ。<完> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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