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カテゴリ:惚れ薬
桑田屋が話し終えたのはおよそ昼九つ、正午頃になります。
その頃吉之助は兄との約束通り、桑田屋から届いた例の弁当を 携えて四谷御門近くの樋津家屋敷に到着しています。 庭園だけでもゆうに三千坪はある敷地内には、池もあれば築山 もあり菜園もあるといった具合で小川すら流れています。 そしてこの敷地内には家老の住まいから、他の家来たちの住む 長屋までもがあるのです。 真っ先に実家に戻った吉之助は正装に着替え、いささか緊張の 面持ちで乾家老宅を訪れました。 家宝紛失の件以来すっかり元気をなくしていた忠臣の乾家老 ですが、吉之助が正装で現れたことを聞くや 『さては御刀が見つかったか』 『それとも憎っくき黒井めをひっ捕えたか』 と、たちまち相好を崩しました。 そんな具合に乾家老の頭の中は宝刀と黒井半介のことで一杯 になっていますから、 「御家老様、お喜びください。 ついに御依頼の薬が出来上がりました由、申し上げまする」 という吉之助の言葉が咄嗟には理解できずに、鳩が豆鉄砲を 食らったような顔つきになりました。 乾家老のそのポカンとした表情が、吉之助の目には間の抜け たものに映った事は否めません。 ・・・・・・・惚れ薬(五十五)四日め にほんブログ村のランキングに参加しております。 応援を頂ければ嬉しゅうございます。 なおクリックはお一人一日一回のみ有効でございます。 このお話し、こちらが第一話めとなっております。 途切れることなく続けてご覧になれます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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