名作落語大全集

４９：マリアンヌの話

　パガニーニが亡くなった後についてお聞きになりたいというのはあなたですか。
　ああ、後継者問題はお聞きになったのね。遺言の件は……まだお聞きになっていない、そうですか。ではそれからお話ししましょう。愛用のヴァイオリンは博物館に寄贈するようにと遺言されていたのもご存知ですね。
　その遺言によると、遺産の一七〇万フランがアキレの物になりました。……ええ、これをまとめている作者、はっきり言いますがいい加減で、一フランをそのまま一万円にしていますが、パリの市長が年俸四〇〇フランですよ、四〇〇万円じゃあ安すぎるでしょう。二倍か三倍と考えていいんじゃないかしら。パガニーニは浪費もすごかったから、それだけしか残っていないのっていう感じですがねえ。
　それから、譜面も全てアキレのものとなりました。パガニーニの作品は内容がないという中傷があって、全く世に出しませんでしたがね。
　パガニーニの妹二人には七万五千フランと五万フラン。アキレの母アントニアには毎年一二〇〇フランを死ぬまで贈ることになっていました。他にもう一人……これはアキレの世話をずっとした乳母のような人なんですが……その人に六二〇〇フランが贈られました。
　さて、死んだ後の騒ぎが問題です。妻であったアントニアとの間も正式には結婚せず同棲だったので、ローマ教会との間に確執もあったのです。パガニーニのヴァイオリンのテクニックは悪魔に身を売って得たものだという噂があったのはご存知ですね。ローマ教会は、それを理由に埋葬を許さなかったのです。
　教会では葬儀は出来ませんが、死んだ者をそのままにしておくことも出来ません。当時は自宅に死体を置いておくことはしませんから、霊安室に置くことだけは許しました。その日からそれを見学するのに長蛇の列が出来ました。私は列の整理を手伝いましたが、最後尾は教会をぐるっと一周して戻って来るんです。その人たちがぞろぞろと霊安室へ行って、裏から出て行くんですが、並んでどのくらい待っていらしたんでしょうね……へえ、日本では行列するという文化があるんですか……こちらが元祖かも知れませんよ。
まあ、教会としてはそういう人の出すお布施も入るし、近くのホテルは死体を見るために全部満室という状態が続いたんですから……どれだけの経済効果があったかわかりません。ただ、パガニーニが時々目を開けて笑ったり、夜中に近所を散歩をするので、教会でも困っていたんですよ。一週間で百万人を超える見物人があったのです。
　結局最後は遺族が裏金を出して密葬が行われましたが、今度は墓地が作れません。墓地が出来るまで、またさらし者には出来ないと考えたのでしょう、正体を隠して地方の墓地に葬ったのですが、それがばれて別の墓地に移します。ここも管理者が交代した時に追い出されました。
　結局教会が埋葬を認めて、正式に墓が出来、永住の地を得たのは一八九六年の八月……死んでから五十六年も経ってからだったのです。

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　パガニーニ作品はその他にも色々あって、ヴァイオリンの曲をチェロ、ギター、フルート、クラリネット、マリンバ、マンドリン、声楽、エレキギターなどに編曲して演奏したものも多数所有している。中野二郎氏がギターのための変奏曲を贈って下さったが、震災で消えてしまった。

　その他、持っていないものも含め、何でも
バレエ「パガニーニ」
　ボリショイ劇場の演奏記録がある。レオニード・ラヴロフスキーの振り付けをヴラディーミル・ヴァシーリエフが再現したものとされていて、アレクサンドル・コブィエフの指揮というのだが、肝心の作曲者について何も書かれていない。パガニーニが舞踏会の演奏で全盛を極め、やがて人生に絶望していくというストーリーらしい。

映画「若き日のショパン」
　１９５１年のポーランド映画。アレクサンドル・フォルト脚本・監督。カジミエシ・セロツキ音楽とある。ショパンが政治情勢と関わりながらコンスタンツェと恋に落ちる。パガニーニの演奏に感動して音楽に生きる決意をするが留学問題に悩み、ポーランド独立運動の中で、ショパンの演奏会も暗殺に利用されそうになる。ウィーンへ留学したショパンは病に倒れるが、パリでかつての仲間と再会し、ポーランド独立を訴えるデモに参加する。

映画「パガニーニ」
　ルイス・コーテス脚本。この人は「鮮血のイリュージョン３」「スタークラッシュ」など、怪奇映画の専門家なので、パガニーニが悪魔に魂を売ったのをテーマとしたものか。「パガニーニ・ホラー」という題で公開されたのがこの作品という情報もある。

映画「パガニーニ・悪魔のヴァイオリニスト」
　デビッド・ギャレットがパガニーニを演じている。悪魔の力でとてつもない技術を身に付けるが、少女を人気歌手に育て上げ、彼女の歌を聞きながら死を迎えるにあたり、彼女の魂の救いを求める。ヴァイオリン協奏曲第４番第２楽章の美しいメロディが愛のテーマとして、ソプラノとヴァイオリンの「愛の二重奏（あなたに）」と題して歌われる。

パガニーニ弦楽四重奏団
　テミアンカ、ロッセール、クールト（フォダールに交代）、マス（フリーズンに交代）の室内楽団。１９４６年１１月にニューヨークでデビューし、６６年に解散するまで精力的に活動した。パガニーニが所有していた楽器を使って演奏している。

パガニーニ号
　イタリアの特急列車。どこからどこへ走っているのか、イタリア語で読めない。

ニコロ・パガニーニ
　バラの一種。真っ赤な花が、まあそれらしい。

ニコロ・パガニーニ
　二つの数字で、元の数字を除いた約数の和がもう一つの数字になる組み合わせを「友愛数」という。「１」も除くものが「婚約数」、友愛数は全て偶数同士か奇数同士、婚約数は全て奇数と偶数の組み合わせで、宗教家のピタゴラスが世界は全て数字で成り立つと説明し、２が男で３は女、これを掛けた６は結婚であり、間違いであると説明した。６が悪魔の数字だと言ったのも彼。元の数字を除く約数を全部加えると元の数字に戻るのを「結婚数」というのもここから。三角関数のピタゴラスその人であるが、平方根を知らなかったので二等辺三角形は計算の出来ない間違った形だと言っている。
　さて、友愛数はこのピタゴラスの時代から知られており、聖書にも登場しているが、最小の組み合わせは「２２０」と「２８４」。フェルマーやオイラーといった数学者が研究し、「オイラーの法則」というのは聞き覚えがあると思う。こうした研究家がやったのだから、それより下はないだろうと思われていたが、１８６６年に学生であった十代の少年が「１１８４」と「１２１０」という二番目に小さい物を発見。教師はこれを自分の手柄としようとしたのでひと騒動持ち上がった。この発見した少年がニコロ・パガニーニ。ここで取り上げた作曲家と同姓同名である。

パガニーニ
　１９８５年に結成されたドイツのヘヴィメタバンド。ボーカルのマーク・パガニーニは作曲家のパガニーニの子孫だと名乗っていたが、男系の子孫はいない。尚、音楽はアメリカン。