【粗筋】
兄貴分の新築祝いに水瓶を贈ることにしたが金がない二人組、道具屋であさってもわずかな銭では見つからない。ところが、探してみるもので、あった、あった。取り壊した家で便器として使った瓶、肥瓶(こいがめ)だ。洗って水瓶として持って行く。兄貴は喜んで飯を食うよう勧める。もちろん卑しい二人組、喜んで応じるが、水を使う料理が出て来る。そこで、豆腐は断っている、香の物も断っている……とごまかすが、
「じゃあ焼き海苔で飯を食え」
「焼き海苔なら……水は使わねえな……あれ、飯はどうやって炊きました」
とうとう怪しまれて兄貴が水瓶を見に行く。
「汚え瓶だな。今度鮒(ふな)ァ持って来てくれ。オリを食うというかなら」
「それには及ばねえ、今まで肥(鯉)が入ってた」
【成立】
上方の「雪隠壺(せんちつぼ)」を東京に移植したもの。汚い噺だが、寄席ではよく出る。嫌な客がいると、わざと汚くやる場合も。最近は普通に寄席で聞くから、これが出たから悪い客ということでもなささそうだ。ラジオで初めて聞いたのは三遊亭歌奴(3:3年2組座って子供立って子供の)で、襲名直後の昭和50(1975)年頃だったと思う。芸の重みを面白く感じ始めた頃で、「軽さの重み」を感じた初めての体験だった。2004年に亡くなったのは残念。現・歌奴は本物の重鎮が期待できる。