【粗筋】
八百屋が御用聞きに来たが、宿の女中が大掃除で忙しく、ぞんざいな口をきいたのに腹を立て、そばにあった徳利を水瓶の中に隠してしまう。これが家宝の徳利だったので大騒ぎ、今さら自分が隠したとも言えないので、占いが出来ると嘘を言って、「神様が女中のふるまいに腹を立て、水瓶の中に隠した」
と適当なことを言って徳利を見付ける。泊まり合わせた大阪・鴻池の番頭がこれを聞き、病気のお嬢様を見てくれるようにと頼み、八百屋は大阪まで行くことになってしまう。神奈川まで来ると、客の財布がなくなって、宿の主人に嫌疑が掛かって困っていると言う。さっそく八百屋先生が占いをすることになったが、夜でないと神様が下りないと言って、夜逃げの支度をして待っていた。そこへ財布を盗んだ女中が、江戸から占いの名人が来たと聞いて自首して来たので、八百屋は女中を助けて、神様がお隠しになった財布を見付けてやる。
翌日になるとこれが評判になって、あれが紛失した、これが紛失した、と近所の人が押し寄せて、大行列が隣の宿場まで続いた。仕方なく先生を起こしに行った番頭が慌てて戻って来て、
「大変です。今度は先生が紛失しました」
【成立】
上方の噺を柳家小さん(3)が東京に移植した。これでは鴻池の娘は見捨てられてしまうので、大阪まで行くように改定したのが、三遊派の「御神酒徳利」。聞き比べると「占い八百屋」は物足りないが、いい所でスパッと切って捨てる、いかにも落語的世界があって捨てがたい。
評論家は、ただの八百屋が思い付いた占いによって、自分自身までが振り回されるという悲劇、世間の無知が人気者を生み出すという風刺を描いたものというが、落語をそういう物とするのは考え過ぎであろう。
【蘊蓄】
グリム童話KHM98[何でも知っている医者]は、カニという農夫、医者がいい暮らしをしているので秘訣を尋ねると、雄鶏の出ているアイウエオ(ABCだろうと思うが……)の本を買う、荷馬車や牛を売って医者の服と道具を買う、「何でも知っている医者という看板を出すという三つをアドバイスされる。金を盗まれた領主に依頼されカニは妻のグレーテの同行を認めさせて屋敷へ行くと、まず食事が出る。最初の料理という意味で、「グレーテや、こいつが最初だよ」と言ったが、給仕は泥棒をした仲間だったので、最初の犯人だと言われたと思う。この給仕が仲間に伝えたので、二番目、三番目の給仕は最初からおびえて同じことを言われる。最後の料理が来ると、領主は料理は何か当ててくれと言う。もちろん分かるはずがないから、「ああ、可哀そうなカニ」と言ったら、本当に蟹だったので領主もすっかり信用する。給仕はすっかりおびえて、隙を見てカニに金も返すしお礼もするから黙っていてくれと、金の隠し場所を教える。いよいよ金のありかを探そうと、カニは礼のアイウエオの本で雄鶏を探すが、どこだったか見付からない。「ここにいるのは分かっている、出てきた方が身のためだぞ」と言うと、残る一人の給仕が本当に見抜いているのか確かめるためにストーブに隠れていたが、見抜かれていると知って驚く。こうして金が見付かり、領主からの礼金、給仕たちから礼金をせしめる。他で得た情報で問題を解決するという例は世界的に多くある。