【粗筋】
経費節約で、老人ホームから派遣されたお年寄りのキャディさんばかりを使うようになったが、一人だけどうしてもゴルフを覚えられないトミさん、客が立て込んでコースに出ることになった。客の方は、取引先の社長の接待なのに、キャディさんが来ないので焦っている。
「あれと違うか……おーい、キャディさ~ん」
「すみません、道に迷いまして」
「とにかく、ドライバーを」
「ねじ回しですか」
「1番というカバーの付いてるのや。カバー取って出せ。捨てたらあかん。使い捨てやないんやから……」
玉を見ているように言ったが、カラスと交錯して見失う。
「こういう時はナイスショットと言うのや」と教えると、OBにも「ナイスショット」。ハラハラするが、社長の方は、亡くなった母を思い出すと、優しくしてやれと言う。
やっとグリーンに乗る。
「どう曲がるかな……キャディさん……て、分からんやろな」
「いいえ、ゲートボールやってるから、芝は読めます。こう曲がりますよ」
「そうか……あらら、反対やがな」
「社長さん、作戦通りです。御覧になりましたね。こっちに曲がります」
……結局日没。4ホールも残したは初めて、疲れたキャディさんをカートで運ぶのも初めて。お詫びに改めて接待ということにした。……
「お久し振りです、社長。絶好のゴルフ日和ですね。では参りましょう……おーい、キャディさ~ん」
「は~い」
「あ、トミさんや」
【成立】
桂文枝の創作落語、第123作目。平成12(2000)年8月初演。