【粗筋】
呉服問屋の兵吉、結婚した幼馴染のお民がすっかりやつれているのを見て心配して手紙を出すが、亭主の定……これも幼友達だったが、女房に気があるのだろうと怒る。二度と手紙を出さないと約束するが、翌朝新しい手紙を見付けると、兵吉をゆすって金を出させようとする。兵吉は、全く身に覚えがないが、奥の部屋でお民が縛られているのを見て店へ金を取りに戻る。
実は縛られていたのは、定に頼まれた茶店の女。訳を聞くと、定は商家の息子だが、ガキの頃から不真面目で、寺子屋でも舟を漕いでばかりで何も身に付かず、とうとうやくざな稼業になった。一方兵吉は貧しい家の生まれだが、寺子屋でも一生懸命にやるので、呉服問屋の方からぜひ雇いたいと申し出、とうとう番頭になった……ま、要するにひがみだったのだ。呉服屋の支店が出来、兵吉がお民を嫁にもらって支店長になるというので調べると、お民の父親が自分の親から借金をしていることが分かり、無理矢理自分の女房にしたのである。
茶店の女は、自分も嫌な男との結婚で身を持ち崩したと言う。定は、兵吉が二通目の手紙を覚えがないと言うのを卑怯だと口にするが、まだ読んでなかった。開いてみると、お民から兵吉への手紙で、連れて逃げてくれと書かれている。旗を立てる定に、
「お前さん、本当にお民さんが好きなのかい」
「好きではないが、意地になって夫婦を続けるんだ」
「じゃあ、誰一人好きな人と一緒になれず、みんな不幸になってるじゃないか」
定は女の説得にはっと我に返り、この女と一緒に彼女の故郷で漁師になろうと決意する。戻って来る兵吉に、お民と一緒になるようにと手紙を残して、旅立った。
「漁師になるとは思わなかった」
「大丈夫だよ、駄目ならあたしが稼ぐから」
「女に食わせてもらえるかい。立派に漁師をつとめてみせるぜ」
「まあ、うれしいねえ、でも舟が漕げるかい」
「なあに、舟を漕ぐくらい、寺子屋で習っている」
【成立】
山本周五郎の「四人囃子」を落語にしたもの。春風亭柳昇が演じた。