【粗筋】
魚屋の源兵衛、とげ抜きの源さんと呼ばれ、呪文を唱えるとどんなとげでも抜いてしまう。魚屋といいながら、どちらが本職か分からないようになっていたが、井筒屋宗右衛門からの依頼で出掛けると、若奥様が喉に爪楊枝を刺してしまったと言う。源兵衛はその美しさに驚くが、呪文を唱えて楊枝を取ってやった。それからこのお種という奥様が毎日のように源兵衛を呼ぶようになる。半年もすると、源兵衛は、まさか楊枝で喉を突くなんてあり得ないと言い出した。それは姑が意地悪で、楊枝を使おうとするのを狙って、突然耳元で「お種どん」と驚かしたからだ、と見抜いていた。自分の生い立ちも語り、母がお地蔵様を立て直し、その首にあったよだれ掛けを付けたらとげが抜けるようになった。母は息子にそれを残して死んだのである。源兵衛は、
「どんなとげよりも言葉のとげが怖いのです」
とよだれ掛けをお種に贈る。ところが、ここに問題の姑が入って来て不義だ不義だと大騒ぎ、店の者も出て来て、とうとう二人は捕らえられる。姑が裏から何かしたのか、わずか5日で死刑に決まる。二人そろって磔になるが、最後の別れに源兵衛は愛を告白、
「名残惜しい、分かれとうない」
と浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」を語る。合図があって槍で突いたが、穂先がポキッと折れる。
「御寮はん、あのよだれ掛けをしとるんですか」
奉行の河内肥後守が駆け付けて話を聞くと、二人の命を助けることを宣言する。見に来ていた姑が進み出て、なぜ助けるのかと非難する。
「考えてみよ。男が語ったのが『阿波の鳴門』、女が地蔵、鳴門と地蔵には勝てぬわい」
【成立】
桂文枝(5)が演った。落ちは「泣く子と地頭には勝てぬ」という諺。「心中」じゃないじゃんと言いたくなるが、死を前にした「道行」があり、心中物の形式を持っているのである。