【粗筋】
喜六が林で博奕の稽古、下りて来た天狗が面白がって仲間に入るが、喜六のイカサマにあっさりと掛かり、金が無いため隠れ蓑笠を取られてしまった。折角の隠れ蓑笠だが、喜六には博奕の賽の目をごまかすとか、居酒屋で人の酒を失敬するとか、けちなことしか思いつかない。
ある日、思い焦がれている向かいのお初ちゃんに夜這いに行こうと思いついたが、家に帰るとお母んが蓑笠を見つけて焼いてしまった後。灰を塗ってみたらと試してみると、見事に透明人間になった。この姿で夜になるのを待って、お初ちゃんの寝床へ忍び込んだ。
お初の親父が夜中に目を覚ますと、娘が異様な声を上げている。声を掛けても返事がないので様子を見ようと階段の下まで来ると、喜六がコトを済ませて下りてきた。親父、これを見つけて、「うわッ、セガレの宙乗りや」
【成立】
『今昔物語集』巻4-24では、宿木(やどりぎ)を5寸に切り、百日間陰干しにしたものを髷(まげ)に挿して姿を消し、王宮に忍び込んで后妃を犯す。この男が生まれ変わって龍樹菩薩となる。『古本説話集』巻下の「龍樹菩薩先の生に隠れ蓑笠を持って后妃を犯す事」第63がほぼ同じ話。
『風流志道軒伝』巻之4では、主人公が風来仙人から得た羽扇で姿を消し、清国の後宮に忍び込む。
『酉陽雑俎』では、唐の玄宗皇帝が羅公遠から隠形の術を学ぶが、衣の帯や頭巾の先が残って完全に消えることはできない。羅公遠は「全ての術を身につけたら、陛下は人の家に忍び込むようになるでしょう」と言って術を用いて去って行く。
落語の落ちは「そこ」だけが濡れて灰が落ちてしまったのである。
それにしても、見えない相手にそのままさせるとは……これは同様の他の話でも、相手の女が抵抗するという記述はみえない。女は本来好きなのか……初(うぶ)な私には分からないが、女を相手にするのはまずいというので、次のようになる。
狂言『居杭(きょくい)』では、居杭という男が、色々目をかけてくれる亭主が「よう来た」と頭を叩くのに閉口し、清水の観世音に祈願して姿の見えなくなる頭巾をたまわる。姿を消した居杭は亭主をからかう。
木下順二『彦市ばなし』は、彦市がだまし奪った隠れ蓑を取り返そうという天狗の子供との知恵比べ。もちろん品を失ってはらならいので、隠れ蓑の使い方も食い逃げ程度に終わっている。
海外で同様の事例は次の2つが見付かった。
『ギリシャ神話』(アポロドロス)第2巻第4章では、ペルセウスがメドウサを倒した後姿を隠す帽子を用い、追ってくる2人のゴルゴンをまいてしまう。
1205年頃のドイツ語の叙事詩『ニーベルンゲンの歌』第7歌章では、ジークフリートが姿を消して、三種競技に挑戦するグンテル王を助ける。王は全ての競技で勝利を得て、対戦相手であったプリュンヒルトを妻とする。