【粗筋】
お世辞が下手で今日も課長に失礼な振る舞いをした男、友達に課長のところに子供が生まれたという噂だから、これをほめに行けばご機嫌が直るだろうと勧められる。
「我々豚児(とんじ)と事変わり、課長の子供は麒麟(きりん)の子。お見受けしたところ、課長に瓜二つ。まさしく課長の血が流れています。実の親子でなければこうも似るものではありません」
と、ほめ言葉も丸暗記して出掛けたが、なんと生まれたのは犬の子供だという。
「我々豚児と事変わり、課長の子供は麒麟の子」
「犬の子だよ」
「お見受けしたところ、課長に瓜二つ。まさしく課長の血が流れていますな。実の親子でなければこうも似るものではありません」
【成立】
春風亭柳昇の得意としていた新作。弟子の昇太は、これを演りたいと言ったら、自分で作れと言われたようだが、今は桂夏丸が演じている。
【蘊蓄】
「課長の子供は麒麟の子」という麒麟は、動物園にいるキリンではない。ビールのラベルにあるのが本当の麒麟で、もちろん架空の動物。その姿が似ているというので、動物園の方が同じ「キリン」という名で呼ばれるようになった。同じ例に「虎」があり、青龍白虎の「白虎」に似ているので虎という。一休さんが絵の虎を縛るという話があるが、当時の日本には縞模様の虎は知られておらず、「白虎」だったはず。
海外では同様の例にゴリラがある。これは小説の怪物で、ロンドンに連れて来られると逃げ出して撃ち殺される。19世紀半ばに発見された大猿がこの「ゴリラ」で呼ばれるようになり、小説の方は更に大きい猿に変更されて「キングコング」という題名になった。映画では最後のシーンで人間の女性が大猿の死体にすがって「私のお腹にはあなたの赤ちゃんが……」という原作のままの告白シーンがある。日本では、「キングコングは私の子と同じ」とか無理矢理翻訳していた。どうやって子供ができるのか、うぶな私は知らないのでノーコメント。