【粗筋】
廓通いの若旦那、女に振られて傷心。番頭が「おめでとうございます」
「昇進じゃなくて傷心なんだ。なぜ振られたんだろう」
「親の金を使うだけで誠意がないからです。あなたを振った花魁が布団の中でそう言ってました」
旦那が呼んでいるというので行くと。
「伜か。お前は吉原通いで見込みがない。勘当してぇんだ」
「感動してますか」
「縁を切りてえんだ。飲む打つ買うの三道楽」
「親の顔が見たいですね」
「お前が言うな」
「遺伝なんですよ。お父っつぁんだって、薬を飲む、息子のことで鬱、家畜の世話でCOW」
文句を言いながらも、息子のために準備をしていた。古道具屋で安く買った品が高く売れれば、店の者も見直すようになる。やらせだが、若旦那の地位と名誉の回復を狙う親心。
ところが若旦那、店を間違えてしまい、手に入れたのが三つの願いをかなえてくれるという三本指の「河童の手」。
前祝に居酒屋で一杯やることにしたが、「熱燗早くしろ」って言ったらもう出ている。飲み始めたら、店の女が「熱燗お待ちどうさま」と持って来た。気付くと指が一本減っている。びっくりして酒をこぼし、
「雑巾、雑巾……あ、あった……あああっ、もう一本減っている」
あと一本に何を願う……世界平和、環境問題、増税反対、いや世界征服、地球滅亡……そうだ、回数を増やせばいいのだ。
「河童の手よ、最後の願いだ。元に戻ってくれ」
と言うと……白い煙に包まれて……河童の全身が蘇った。
「河童太郎だよ~」
「お前でいいから、願いをかなえてくれ」
「元に戻ったから、魔力を使い切った。また力を持つのに百年以上かかるぞ」
「あらそう……しょうがない、これから家に帰って地道に働くよ。お前も手伝ってくれよ」
「せっかく河童の手を手に入れたのに、そんな願いでいいのか」
「もちろんだ。これからは忙しくて猫の手も借りたくなる」
【成立】
桂枝太郎(3)の創作落語。