【粗筋】
呉服屋である伊勢屋の持ち物である長屋に住む源治、こともあろうに大家の伊勢屋の娘の愛想のよさに惚れて恋煩い。見舞いに来た六兵衛からイモリの黒焼きを教えられ、与太郎に買いに行かせて手に入れると、伊勢屋の物干しにある娘の襦袢にふりかけておく。翌日、娘から「本日両親が外出するが、留守の間に内密で話があるから来てくれ」と手紙が届く。喜び勇んで出掛けると、娘がきつい顔で、
「あなたは家賃を8つもためています。父親が甘い顔を見せているので、内緒でお呼びしました。3日以内に払って下さい」
と催促する。帰ってまた寝込んだ源治の話を聞いて、六兵衛が、
「そんなはずはねえがなあ」と与太郎に、
「お前、いもりの黒焼きを買って来たんだろう」「え、いもり……俺はやもりを買ったぞ」
「ええっ、こりゃあ薬違いだ」
【成立】
一般の書籍では、上方噺「いもりの黒焼き」を東京に移植したものとおされている。安永10(1811)年『民和新繁』の「ほれ薬」は、大家の娘に惚れたのでほれ薬を買う。薬を掛けた途端に「すぐに出て行け」と言われるので、薬屋に文句を言いに行くと、間違えて「追い出し(鼠などの駆除に使う薬)」を渡していたというもの。この噺が演じられていたので、上方のとは別に伝わったものという説もある。
「えっ、やもり……だから店賃を催促したんだ」という落ちもあったというが、そもそも娘の家が家主(家守=やもり)なんだからちょっと変。