【粗筋】
亭主を亡くしたお龍、女手一つで育てた娘のおくしが髪結いになり、家計を支えるようになると、若い男を作って夜な夜な家に引き込んでいる。おくしが評判の親孝行なら、母親の男というのが馬子で博奕打ちという札付きの悪。それを知っても母親にお金を届ける健気なおくしであったが、ある日、
「今日はお父っつあんが来るさかい、もう少し出しておくれ」
と言われると、さすがに腹を立てて、
「私のお父っつあんは、仏壇の中の人しかいまへん」
と口答え。怒った母親が湯の湧いた鉄瓶を投げつけ、そこへ現れた馬子までがこれを聞いて乱暴を働く。逃げ出したおくしは、悲しみのあまり身を投げてしまう。
さて、死んだ亭主の弟が網打ちをしていると、身投げの死体が掛かった。これがおくしなので必死に介抱すると息を吹き返し、一部始終を話した。叔父はすぐにお龍を訪ねる。
「姐さん、実の子よりも、その男の方が可愛いんだっか」
「可愛いのうてかいな。馬子(孫)じゃもの」
【成立】
林家菊丸(2)の作といわれる。
落ちは「孫は子よりも可愛い」の「孫」を「馬子」と掛けた洒落。古い速記には、「死ぬなら今」等と同じように、落ちを先に説明しておく演出があったようだ。娘の人情をうまく表現すれば生きた噺になるかも知れないが、消えていくのだろう。
【蘊蓄】
馬子は卑しい商売の代表とされ、「馬子にも衣装」は「どんな人間でもいい着物を着れば立派に見える」ということ。「孫にも衣装」と解釈して、「可愛い上に着物もいい」という意味で使われるのは昭和の後期に起こった間違い。テレビなので取り上げたお陰で間違いが減少した。