【粗筋】
素人相撲で次々おかしな相撲が続く。出ては負け出ては負けという男がいる。
「あれは弱いね」「大安売りをやってる店の主人だ」
「だから負けてばかりいるのか」
最後に出たのは素人横綱の大男と、小柄な男。体の差で、あっという間に小さい奴を両手で差し上げてしまった。
「さ、これでわしの勝ちじゃ。降参せねば投げ落とすぞ」
「何を、実は俺は柔術の師範だ。投げられる時に蹴ってあばら骨を折って、命が助かっても二度と相撲は取れないぞ」
「そりゃひどい。相撲で命を奪うなんて聞いたことがない」
「聞いたことがなくてもやってみせる。さあ、投げろ」
大男、小男を差し上げたまま、土俵をぐるぐる。
「人殺し、人殺しだ」
【成立】
今は全く演らなくなったが、昭和40年代の本にはよく出ている。最初の「負けてばかりいる」というのは「大安売り」の落ち、中盤は「素人相撲」と同じ。1772(安永2)年『今歳花時』の「立あい」は、柔術の名人だと嘘をいうのをこらしめようとして相撲取りが相手を持ち上げて、最後と同じ落ちになる。