【粗筋】
松下さんのところに、薬剤師をしている子供から手紙が来た。老眼鏡を壊しているので下川さんに読んでもらう。今病院で働いており、研究のために洋行も勧められているが、今の仕事が人のためになると思って頑張っているという内容。
「本当に立派な子ですよ。中間子でも研究すればノーメル賞でも取ったでしょうに。お宅は女の子ですから関係ないですな。はい、さようなら」
と帰って行く。妻が、忘年会で口喧嘩をしたから、その仕返しのつもりで手紙を読んでもらいに来たのに違いないと言うので、娘に手紙を書くよう電報を打てと言い出す。
娘の手紙が届くと、松下さんに読んでもらいに行く。松下さん、この間の仕返しと思って、真面目に読まない。
「おとつさんこきけんいかかてすか」
「濁りを打ってあるでしょう。ツの字は飲み込んで下さい」
「べっに」
「そこは『べつに』でいいんです」
看護学校をもうすぐ卒業だが、産婦人科の免許を取って故郷に帰りたいと伝えている。
「女の子は優しいから。それに比べて男の子は自分勝手で、上野公園のルンペンも、女は学問がなくてなっているが、男は横文字を読んで政府の悪口を言う……学問のある男はろくなものになりませんな。はい、さようなら」
悔しいので、息子に5千円を送ってそのまま送り返させる。息子が稼ぎから仕送りをしているということにするためだ。下川さんの方も同じことを思い付いて実行するが、娘からは2千円しか送って来ない。お詫びに後で手紙を寄越すという。一方松下さん、5千円まるごと返って来たので勝ち誇っていたが、手紙には世間を偽ることで恥ずかしいと書かれている。何だか分からない。
下川さんの娘からのお詫びの手紙が来た。病院に勤めている彼氏が出来たが、実は見習いで資格も持っていない。薬剤師の国家試験を受けるために3千円を使ったというのだ。その彼氏が、同郷で、松下薬局の息子さん……びっくりして松下さんに話に行く。
「どうです。我々がいがみ合っても仕方がない。この縁談を取り上げてくれますか」
「取り上げますとも。相手はお産婆さんですから」
【成立】
有崎勉作、古今亭今輔が演った。湯川秀樹がノーベル賞を取った直後の作品。