【粗筋】
「堀君、この惑星にも桜が咲いたやないか」
「よろしおましたなあ」
導入がSFでっしゃろ……付いて来て下さいよ。
二百年前に桜が滅び、復活を命じられて25年、地球と似た惑星を探して育てるのに成功したのだ。国立資料館の資料もいい加減で、珍しい植物は出ているが、そこら中にある植物は載っていない。桜は日本という国にあって、どこにでもあったので資料が残っていなかったのである。
「古い資料には花見をしたと書かれていました」
「ほう……こうやって眺めていても別に面白くないなあ」
「そうなんです。だから、何か特別のことがあるのではないかと探したところ、花見を継承している人が見付かりました」
「何者だ」
「花シカという、資料では座布団の上で、民族衣装でくだらない話をして笑ってもらうという……」
「人間のクズだな……そんなのがまだ生き残っているのか」
「いや、百年前に滅びたそうで……」
「博士、今地球からハナシカという方がお見えになりました」
「おお、こちらへ通せ」
といので、ハナシカが来る。ロボット何台も後ろに引き連れて、その道中のにぎやかなこと……鳴り物……
「何じゃ、このバカ騒ぎは」
「初めまして、私が花見の継承者でございます。お初にお目に掛かります……いよっ」
「早速、花見を見せてくれ」
「こちらに資料がございまして……」
「見せてくれるか……かつらこめあさ落語全集」
「それは、べえちょうと読みます。桂米朝で」
「べちょ……何だか汚いな……何だ」
「ハナシカの元祖らしゅうございます。花見に二つのパターンがございまして、一つは、お茶を薄めて一升瓶に詰め、おからを用意します」
「何だか情けないな」
「貧乏花見のパターンです。もう一つは、上等の酒に肴……百年目というパターンで」
「そんな贅沢は出来ないな」
「それでは一般的なやつで……芸者を揚げるという……芸者と言/いうのは女性で……」
「この星に女はいないぞ」
「ですから、ロボットを引き連れて来ました。国鶴3号、頼むよ」
鳴り物……酒を酌み交わして歌と踊り……
「これで枝を折って……」
「おい、それはいかん……やっと育てた桜だぞ」
「何を言うとんのや……誰に物を言うとんのや……おい……」
大騒ぎ……
「あの星も滅びたなあ……」
「はい、見ていた星の住人が真似をして毎日毎晩酒を飲んで桜の枝を折ってどんちゃん騒ぎ……経済的にもつぶれるわなあ……しかし、この星、瓦礫の山やで」
「ここにまた桜を咲かせます」
「しかし、育てるのに20年以上掛かった。お前さん60過ぎるぞ」
「大丈夫です。あのハナシカの本を盗み見ているので、花だけならすぐに咲きます」
「この瓦礫にか……本当か」
「はい、呪文と共に灰をまくだけで花が咲きます」、
「どんな呪文や」
「はい、みんな気付いてますが……瓦礫に花を咲かせましょう」
【成立】
桂南光がオムニバスでやったSF噺。