【粗筋】
貧乏な夫婦がいたが、亭主が無くなると、女房は貧しくて線香も上げられない。10日目に、墓の前で涙を流し、
「お線香も上げられないので堪忍しておくれ。その代わり10日分まとめて……」
と、前をまくると石塔になすりつけ、
「お線香の十倍のものをあげるよ」
これを見た住職が女房を奥に連れ込んで、手込めにしようとする。
「何をなさいます」
「仏にあげたものは坊主のものだ」
【成立】
文政9(1825)年前には成立していた『流行噺の安売』三編にある「女房」は、女房孝行が過ぎて亭主が死ぬ。女房は毎日墓参りをして前をまくって墓に見せる。和尚が訳を聞くと、亭主が死ぬ間際に残した遺言に従っているというので、「そんなに執心のかかったモノなら、寺に納めなされ」……後半は「後家と坊主」その1(墓参の後家に、坊主が墓の後ろから「お前も寺へ納めろ」と声を掛ける噺)と似ている。
よく演じられているが、東京では小噺として「線香の十倍のものをあげました」で切ることが多い。上方の人が演ったのは「百ヵ日がすんだら寺に納めて下さい」というもので、原作に近い。「石塔陰門(せきとうぼぼ)」とも。「後家の墓参」とも。柳家小さん(5)や桂文治(10)を聞いたが、いずれも「線香の十倍」だった。
ある落語家の話……こういう噺をする席で、素人の旦那が「俺も知っているからやらせろ」と来た。やらせてみるとこの噺の前半で「線香の十倍」の後にその名前を連呼した。他の客にも大いに受けたが、さて、その後プロの落語家の小噺はちっとも受けなくなった。当然のことであるが、プロには品が求められるので、絶対にそのものを口にはしない。
まあ、とにかく汚い物を汚いように表現するのは素人……あ、じゃああの落語家も素人かな……
【蘊蓄】
因みに女性のそのものは放送禁止用語、なぜか男のモノは禁止されていない局がある。一説では「オーチンチン」とか「チンチンポンポン」とか、そのまま歌詞にした歌が流行ったためという。