【粗筋】
結婚1年の安井君、どうも元気がない。社長に呼ばれて、同僚からは最近仕事に身が入っていないからクビになるんじゃないかと脅される。行ってみると逆で、このところ業績がいいから給料を上げるという話。手に怪我をしているのを見られ、そこからとうとう告白したのが、結婚してから女房の態度が変わったというのだ。
社長は飲みに連れ出し、君は女房の腰巻を選択するかと言い出した。社長は洗う。言ってみれば、盥のようなもので、女房の腰巻を洗うのに大きい盥で無ければならない。女房を思うのに、器が大きいという話をし、日記を貸してくれる。
それから、安井君、自分で出来ることは自分でやるようにして、自分も「盥日記」を書き始める。それから三月、全く生活に変化なし。女房がこの日記を見付けて盗み読み……その夜、帰って来た夫がまめに働くのを見て、女房が泣く。
うれしいて泣いたか、悲しいて泣いたか、みなさんのご推察にまかせます。
【成立】
山中峯太郎の作品。大正11年頃に、「たらいの福音」という題で『婦人公論』に発表された。桂小文治がこれを読んで題も変え、喋りやすいように手を加えた。「原作を歪めただけのようでして」と配慮している。社長の名前に山中氏の名を使うなどの配慮があるが、もう時代は違うし、締めがぴりっとしていない感じ。