馬が出てきます
■桜井の別れ青葉茂れる 桜井の 里のわたりの夕まぐれ木(こ)の下蔭に駒とめて 世の行く末をつくづくと忍ぶ鎧の袖の上(え)に 散るは涙かはた露か正成涙を打ち払い 我が子正行呼び寄せて 父は兵庫へ赴かん 彼方の浦にて討死せんいましはここ迄 来(き)つれども とくとく帰れ 故郷へ父上いかにのたもうも 見捨てまつりてわれ一人いかで帰らん帰られん 此正行は年こそは未だ若けれ諸共に 御供仕えん死出の旅 いましをここより帰さんは わが私の為ならず>己れ討死為さんには 世は尊氏の儘ならん早く生い立ち大君に 仕えまつれよ国の為め此一刀(ひとふり)は往(いに)し年 君の賜いし物なるぞ 此世の別れの形見にと いましにこれを贈りてん行けよ正行故郷へ 老いたる母の待ちまたん共に見送り見返りて 別れを惜しむ折からに復も降り来る五月雨の 空に聞こゆる時鳥誰か哀と聞かざらん あわれ血に泣く其声を