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CNおばさんの本と映画と猫と雑記

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2014年06月17日
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カテゴリ:向田邦子
意外なきっかけで知り合った男は画家だった。
繊細な指、しゃれた服装、そして胃を病んでいる。
丈夫で平凡なサラリーマンの夫とは何から何まで違っていた。
魅力的な男の出現に揺れる微妙な女心を描いた表題作の他、
温かくてちょっとホロ苦い向田ドラマの秀作
「びっくり箱」「母上様・赤沢良雄」を収録。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.びっくり箱

「お母ちゃん、それでいいの、寂しくないの」

「もともと一人だもの。
一日ミシンガタガタやってりゃ、何とか生きてゆけるよ」

とし江は気丈に応えた。
しかし厚子は、とし江の瞳に浮かぶ哀しみの色を見逃さなかった。
淋しさとあきらめ・・・。
つい最近同じ表情を見たような気がした。
どこだったか。
そう考えた時、厚子はハッと息をのんだ。
小塚やすの遺影、あの表情である。
女が女であることをあきらめた時、
その表情は何と暗く悲しく見えるものか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.母上様・赤澤良雄

「うちの正一ったらね、一番おしまいの手紙に
『日本へ帰って、おっかさんと一緒にカエルの声を聞きたいです』って・・・」

しまはハッとして、仏壇の中の遺影に目をやった。
供えたばかりの白菊の花陰から、うら若い特攻隊員が、
しまに向かってテレくさそうな微笑みを投げかけている。
形の良い口許からほんの少しこぼれた歯が、
白菊よりも白く清々しく見えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.愛という字

「初めて聞いた色の名前だから、新鮮に聞こえたのね。
パープルレーキは、とりレバーの色・・・
モーブは、うちの庭に咲くスミレの色だわ。
毎日の暮らしの中にあったのよ」

直子は、睫毛を瞬いて、雨の雫を払った。

「・・・・そうかもしれないな。
病院で僕の手首をつかんだあの力は、愛だなんて言ったけど、
『空巣』と間違えて、僕の手首をつかんだときの方が、
強かったかもしれない」

「・・・・・」

「ご主人への愛の方が強かったわけだ」

「物欲じゃないかしら。女はケチだから・・・」

守田は苦笑すると、直子も自嘲の笑いを浮かべた。
雨が激しくなっている。





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最終更新日  2014年12月20日 10時44分29秒
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