押川 國秋 「十手人(じってにん)」
再読です。第10回時代小説大賞受賞作品。書き出しの風景描写が上手いです。悲しい過去を持つ若者源七が同心弦一郎の下っぴきとして事件を解決しながら、自分自身が成長していく物語です。殺された父親。自分と父親を捨てて男と逃げた母親。後に母親は心中未遂を起こし晒し物の刑を受け、その後行方不明…源七は、荒れた暮らしをしていた矢先の喧嘩により罪人となります。腕に三本の線の入れ墨をされ、前科者としての印をつけられます。そんな中、濡れ衣を着せられ罪人となる寸前のお菊を救います。疑惑を持ち、お菊の周辺を探索し真の下手人を突き止めます。同心弦一郎は、源七の探索能力と人柄に一目置き、自分の手下になるよう誘います。それからの源七と弦一郎の素早さと執念により事件を解決して行くのですが、同心弦一郎は同時に源七の行方不明になっていた母親を探し当てていました。源七と母親…源七とお菊…源七と同心弦一郎…登場する人物全員がはっきりとしたキャラとなって目に浮かびます。長屋の住人たち・・・源七の友達・・・その他源七と関わった人物までもが、しっかりと描いています。源七の弱さや先走りや幼さと言う、男としても弱い人間像を描いている事で、周りの人から受ける情や協力で大人になって行きます。最後には母親との悲しくも胸の奥にしっかり刻まれる思いが描かれています。シリーズになったら面白いのに、この作品はこれだけ。お菊との恋仲もこれからと言うのに・・・(^^)表紙の絵は日本画家の「小村雪岱」