ラストシーン
倒れこんだハルメッヒは僕の腕に抱きかかえられたまま力を振り絞って話を始めた。「お、お、おら、たくさんの人の笑い声を聞くのがす、す、好きだったから」ハルメッヒは震えながら言った。「あのお金さえあれば、みんなおらと楽しく笑ってくれた」ハルメッヒはそう言うと僕の目をじっと見つめ、決心したような口調でゆっくりと僕に言った。「あんたは、おらの友達か?」「うん」僕は言った。「よかった。それこそおらが一番欲しかったものだ」そう言うと彼は初めてニコリと笑い、「もう思い残す事はない」と言った。そしてその瞬間、ハルメッヒの体は砂の様に一気に崩れ去っていったのだ。それは瞬きほどの速さで完了し、僕に理解の時間さえも与えてはくれなかった。こうして最後のスペレッツェもこの世から消えてしまった。僕は何度も彼の名前を大声で呼び続けた。でも、僕の枯れた声はもう2度と彼に届く事はない。しばらくして低く立ち込めていた黒雲から大粒の雨が一気に糸を引きながら落ちてきた。激しい雨に頬を打たれながらも僕はその場を動けずにいた。**********************今回は本館の連載企画「モル辞苑」と同じ内容です。