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2005/09/17
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カテゴリ:シロウトの音楽話
私はマイルス=デイビスが好きだ。
マイルスには、「努力の人」というイメージがある。
下手っぴーなトランペッターから、帝王の座に君臨したマイルス=デイビスの成長物語を、授業中の訓話ネタに使うことがある。

麻薬中毒でラリって電話ボックスで立ち小便したチャーリー=パーカーや、廃人寸前になり精神病院で脳に電気を流したバド=パウエルの生涯は、さすがに教育の場では語れない。
マイルスは「根性」で成り上がった人だから、「王貞治」的精神的訓話が成り立つので、生徒のやる気を昂揚させることができるのだ。(少々クサいけど)

マイルスは最初テクニックはなかった。マイルスのキャリアが浅い頃に、サボイ盤でチャーリー=パーカーと競演している演奏は、両者の力量の差、カリスマ性の差がはっきりと現れていて悲惨だ。
チャーリー=パーカーの演奏は、輪郭が明確でスピード感があり、しかも不気味さを漂わせていて、まるで巨大で太いニシキヘビが、地面を猛スピードでクネクネと這いずり回っているようだ。
そんなアルトの超絶ソロと比較して、無理して速く吹こうとするマイルスのトランペットはブツブツ途切れて拙く、悲しいぐらいに力量は雲泥の差だ。

しかし若い頃に、チャーリー=パーカーの薫陶を受けて、圧倒的に力量の違う相手と競演したことは、マイルスにとって無駄ではなかった。天才の閃きを間近に浴びることで、マイルスは何かをつかんだのだろう。
圧倒的なチャーリー=パーカーの才能を前にして、他のミュージシャン達は、「バード?あいつは天才だよ。オレがあいつに勝てるわけないさ」で片付けた。天才とは極力かかわらないようにした。しかし、マイルスは違った。正面からチャーリー=パーカーにぶつかろうとした。

何が一流か、どんな演奏が本物のジャズか、マイルスは賢い男だから頭でわかっていた。しかし自分のトランペットで体現する技術は持っていなかった。地獄の苦しみだっただろう。

それにしても、チャーリー=パーカーという天才に並ぼう、勝とうと想像すること自体凄いことだ。ところがマイルスは、秘めたる闘志をバネに、パーカーを超え、トップ=ミュージシャンになろうという強靭な意志があった。そして長期戦を覚悟しながら、超一流への階段を一歩一歩登りつめようとした。
マイルスのレコードには、偏差値をじわじわと上げて行く子供の成績表の変遷を見るように、過酷な成長の後がくっきりと刻まれている。

そんなマイルスの前に立ちはだかったのが、正真正銘の天才、クリフォード=ブラウンだ。クリフォード=ブラウンの演奏は、たとえて言うならカリスマ予備校講師だ。語り口は流麗なのに軽薄ではなく、スピード感は十分なのに言葉に重みがある。内容は理路整然として、隙がない。
初期のマイルスの語り口はボソボソして、しかもぶっきらぼうで、とてもじゃないけどクリフォード=ブラウンの敵ではなかった。

楽器は同じトランペットで、年齢はほぼ同じぐらい。マイルスがクリフォード=ブラウンを意識しないわけはない。
クリフォード=ブラウンに、饒舌さで勝負を挑むことは無謀です。それはマイルスが誰よりもよくわかっていた。クリフォード=ブラウンみたいに輪郭のはっきりした星の王子様のような美音を、鋭いテクニックで撒き散らして客を酔わせることは、マイルスには不可能だった。

マイルスは、180度方向性を変えた。マイルスは沈黙の美に気が付いた。ふだん無口で訥弁な人が、突然口を開いたときの、「高倉健」的言葉の重み。饒舌じゃなくても自己表現ができる。いや、寡黙だからこそ説得力をもつ。

マイルスはバンドに静寂を要求した。沈黙を要求した。ピアノの音で「闇」を作れるビル=エバンスと競演した。
どこでも誰とでも吹けるクリフォード=ブラウンと違って、マイルスは自分のバンドのスタイルに、人一倍こだわった。自分のソロを引き立たせるために、「威、あたりを払う」かの如くバンドに君臨し、自分のソロを引き立たせる演出を施した。

リズム隊が神経質に、マイルスの露払いをつとめる。たっぷりと思わせ振りな間を取った後、マイルスのソロが登場する。夜の闇と静寂の中、マイルスのトランペットが虚空を駆ける。アイスピックで氷の塊を鋭く切り裂くような、トランペットの音色。マイルスの弱音器を使った、陰影に富む不器用な音色は、聴く人間の心を捉えて離さなかった。マイルスは発想の転換をして、「沈黙は金、雄弁は銀」の道を、スタイリッシュに突き進んだ。そんなマイルスの試みが頂点に達した「カインド・オブ・ブルー」は、芸術的にも、商業的にも成功した。

しかし、マイルスは帝王と呼ばれるようになり、ステージで観客の誰もがマイルスの演奏に熱狂しても、演奏終了後観客への挨拶もほどほどに、ぶっきらぼうかつ恥ずかしそうに下を向きながら、舞台から足早に去っていった。

マイルスのぶっきらぼうさは、どこから来るのだろうか? 傲慢とも劣等感感とも違う。発展途上の人間が持つ余裕のなさといおうか。どこかそれは、無愛想なイチローによく似ている。
自分の出す音が気に入らない。自分の演奏を完成形ではなく、常に完成途上ととらえた謙虚なマイルス。そんな謙虚なマイルスは、「沈黙は金」の方向性を極限まで推し進め、大成功を収めた「カインド・オブ・ブルー」のスタイルすら破壊して、更なる高みに上り詰めようとした。

さて、私がよく聴くマイルスのアルバムベスト5は
1「フォー・アンド・モア」
2「マイルス・イン・ベルリン」
3「ライブ・アット・プラグド・ニッケル(ハイライト)」
4「カインド・オブ・ブルー」
5「リラクシン」





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Last updated  2005/09/17 09:25:25 AM
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