|
テーマ:塾の先生のページ(7616)
カテゴリ:塾の日常風景
ぜすと艦長のブログの「壁壊し」という話題を拝見して、わが塾草創期の頃を思い出した。
私の塾の教室は、私が入居する前には建築事務所が借りていたらしい。 この教室は部屋がとても広く、学校の教室の1.5倍くらいあり、生徒を詰め込んだら50人ぐらい入るような広さだった。 生徒が10人そこそこなのに、50人の部屋は広すぎる。授業の時は大学の不人気教授の出席を取らない授業のように閑散として、広さを持て余していた。 この部屋、ちょうど相撲の稽古場ぐらいの広さだったので、授業が終わると机と椅子を脇に置き、板張りの床に白チョークで土俵を書いて、生徒達と相撲を取ったりした。 そんなことをしていると、私は自分が良寛さまになった気分になった。 ただ、残念なことに私は良寛さまでも相撲の親方ではない。塾の先生である。広い部屋に土俵を作って相撲部屋を経営するわけにはいかない。 だから広い部屋の間に壁を作り、2つの部屋に分けた。相撲はできなくなったけど、教室にはちょうど良い部屋ができた。 ところで、わが塾にはD君という男の子がいた。壁を作った当初は中2だったが、彼は大胆な物怖じしない性格で、将来の大物感を滲み出していた。 やることなすこと、本宮ひろ志の漫画の主人公みたいな男で、私は彼に一目置いていた。 どんなに憎たらしいことを言っても、奇矯な行動をしても、可愛げが滲み出ていた。 私は気難しい性格なので、人に対して心はめったに開かない。それは生徒に対してもいえる。 私と仲良くなるタイプは、紳士淑女的な常識豊かな子か、私と同じ匂いを持つ気難しい子か、或いは気難しさを物ともせず、私の懐の中にズカズカ入り込んでくる積極的な子のいずれかだ。 D君はズカズカタイプで、どういう行動を取ったら私が喜ぶか、天才的に察知している子だった。 さて、新しく作った壁、安くで工事してもらったからなのか薄い。壁を叩くとボコボコ音がする。 思い切って叩くと壊れそうだ。 壁の薄さに気づいた中2のD君、なんと 「先生、オレこの壁破ってもいい?」 と言ってきた。 D君の普段の言動ならやりかねないが、さすがに冗談だと思い 「いいよ~」 と答えた。 そしたら、D君は真剣な顔して、パンチで壁を破り、拳の大きさの穴を壁に作ってしまったのである。 私の頭の中には、補修費用とか金銭的なことが頭を少しかすめたが、それよりD君のヤンチャな大胆さに驚き、 「お前は面白い男だな」 とD君をほめ上げた。 普通の子は、塾の壁を遊び心で破ったりはしない。D君の行動に、私は何よりも彼の将来の明るさを感じた。 広い部屋で相撲大会をして、壁を作ったらブチ破る子がいて、塾の草創期の頃が一番楽しかったかもしれない。 D君は今、一流企業のサラリーマンになっている。 何の変哲もないホワイトボード ホワイトボードを外すと、D君の拳の後が残っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/12/06 03:30:23 PM
|