老後破産
定年後は家でダラダラ過ごす年金16万円、65歳の元サラリーマン。「退職金と貯金で2,500万円だし、出不精・倹約家だから大丈夫」と思いきや…老後破産となったワケ日弁連2020年の破産事件等調査結果70歳代以上の割合が前回の調査でいったん減少となったものの、2020年の調査では9.35%まで増えており、これまでの最大を示しています。 また、生活保護を受けている年代を年齢階層別に見てみると、下記のように平成元年の水準を100とした場合、60代と70代以上の年代でも伸びが大きいのがわかります。お年寄りはお金を持っている、といったイメージが崩れてきているのがわかります。 今後も医療費や介護費の負担増や増税・社会保険料のアップ、物価の上昇などにより、若いころより病気やケガをしやすい70代以降の生活は苦しくなり、「高齢者の貧困」は大きな問題となってくると考えられます。また、多重債務の相談原因の「低収入・収入の減少」が高いことから、現役世代では早期退職やリストラ、役職定年が、高齢者では定年退職後の収入減やその収入減に生活レベルが合わせられなかったり、住宅ローンが老後も残ってしまったり、といったことも影響していると考えます。Aさんのケース60歳で定年退職を迎えたAさんですが、在職中に人間関係に疲れてしまい、仕事を続ける気も起きなかったため、再雇用契約をせずにそのままリタイアしました。定年退職当時は、約1,500万円の退職金とほかにも1,000万円ほどの貯蓄等がありました。家族は私立大学3年生の息子と3歳下のパート勤めの妻と住宅ローンが70歳まで残る持ち家に3人で暮らしています。 なお、離れた田舎に80代の母親がまだ一人で暮らしていますが、亡くなった父親は自営業(定食屋)だったため、遺族年金もなく、わずかな貯蓄と国民年金で暮らしています。まとまったお金もあったことからAさんは「もし、なにかいい仕事があったらやってみよう」程度にしか考えておらず、パートに出ている奥さんに疎まれながらも自宅でダラダラ過ごしていました。 あまり外へ出ないAさんですから、お金もあまり使いません。どちらかというと身の回りのものにお金を使うタイプでなく倹約家ですが、年金受給まではまだ何年もありますし、生活のために貯金を取り崩す一方でした。定年退職後は、古くなったキッチンをリフォームしたり、家電も故障で買い替えたりと、臨時で大きなお金も出ていったため、だんだんとお金についても気になってきました。 奥さんに言われてハローワークに相談に行きましたが、なかなか希望の仕事もありません。奥さんの目もうるさいので、一日だけ倉庫でのアルバイトをしてみましたが、一日中動きっぱなしの仕事は、デスクワークしかしたことのないAさんにとっては苦痛でした。さらに、息子のような若い年齢の人間から指示されての仕事は、Aさんにとってはあまり気分のいいものでもありません。 「年金がもらえるようになればなんとかなるだろう」と将来の月16万円の年金をあてにして、結局はアルバイトも続かず、Aさんは引きこもってしまいます。そんな生活を5年間続けていたAさんですが、生きがいもこれといってなく、あるころから漠然とした不安感にさいなまれるようになってしまいます。運動も特にはしていませんので、足腰も弱くなり、ある日、立ち眩みを起こしたときに転倒して骨折してしまいます。骨折だけでも大変ですが、立ち眩みの原因が「うつ病」と診断され、Aさんは長い療養に入ることに。 さらに悪いことに、離れた実家に住む母親も体調を崩して入院してしまい、高齢のため、入院期間も長引いてしまいましたAさん自身は医療保険に加入していましたが、母親の保険は80歳で切れてしまっていたため、保険金が出ず、病院代の援助も行う羽目になってしまいました。入院は医療費だけでなく、食費や衣類などいろいろなお金が必要になります。 キッチンリフォームや住宅ローンの返済に子どもの学費、自分と母親の治療費と、定年退職後のわずか数年で貯蓄はほとんどなくなり、Aさんの家計は破綻の一途を辿ることになってしまいました。いざ病気になったり介護状態になったりすると、アルバイトもできなくなりますし、出費は増えるばかりですから家計への負担は大きくなっていきます。 病気やケガは自分だけではなく、親や配偶者の身にも起きるかもしれないことです。家族のなかに病人が出ると、金銭的・肉体的・精神的にじわじわと影響が出てきます。 後期高齢者のうち、一定の所得がある人を除いて現在は原則1割負担となっている窓口負担ですが、膨張する医療費を抑えて制度の持続性を高めるためにとの理由で2割負担への引き上げも検討されています。 老後に病気にかかり医療費がかさんだことがきっかけとなって、マネープランが狂ってしまい、最終的に老後破産に陥るというのが、高齢者の最も多いパターンのひとつです。自分自身や配偶者のことだけでなく、親御さんの保険の加入状況なども調べておきましょう。健康に気を付けて病気にならないように日ごろから気を付けていくことも大事ですが、老後設計は病気や介護状態になったときにどうするか?を重点的に考えていく必要があります。