『ビジネス・ブレークスルーチャネル』~ビジネスモデル・イノベーション~
「ビジネス・ブレークスルー」社の「ビジネス・ブレークスルーチャネル」にゲスト出演させていただいた。この「ビジネス・ブレークスルー」は、大前研一氏が代表取締役を務める遠隔型マネジメント教育企業で、その中で「ビジネス・ブレークスルーチャネル」は、ブロードバンドおよび「スカパー!」を通して受講者向けに講座を提供している。その会費がけっこうなお値段で残念ながら私自身も会員ではないが、企業の社員教育の一環として、あるいは個人で、多くの会員がマネジメント(経営)を学んでいるとのことだ。出演したのは、早稲田大学大学院の山田英夫教授が講師を務める新シリーズ『ビジネスモデル・イノベーション』の第一回。山田先生は、以前ご紹介したが、新著『なぜ、あの会社は儲かるのか?ビジネスモデル編』の中で「ケース」の一つとして私の取組を取り上げて下さっており、そのご縁での出演だ。なお同書では、<「ビジネスモデル」という言葉は、決してIT業界などに限定されたものではなく、成熟産業においてもそのイノベーションは可能である>、<異業種で成功した事例を採り入れることは、ビジネスモデル・イノベーションの有効な手法である>という考え方の元に、多くの業種の多くの事例が紹介されている。今回の番組もそのテーマで構成されており、そのトップバッターにご指名いただいたことは非常に光栄である。私が高速バスの「ビジネスモデル」に関して「イノベーション」した内容があるとすれば、【1】高速ツアーバスが成長する過程で、レベニューマネジメント(RM)など異業種(ホテル)の手法を導入したことと、【2】「バス事業のあり方検討会」委員に任命いただいたことで、国の制度改正を促し、営業面の規制の厳しさゆえRMなどを導入しづらかった高速乗合バスにおいてもそれらの手法を活用できる環境を作ったことの2点であろう。そうして考えると、私がやってきたことはまさに「真似をする」ことであったことがよくわかる。ホテル側の担当として出会ったウェブマーケティングやRMの手法を、まずは高速ツアーバス各社が導入しやすいようアレンジして、それを彼らに伝える役割を担った。それが(営業上は)十分な成果を上げたことで、新高速乗合バス制度にほぼそのまま採用していただき、既存の高速乗合バス事業者もそれらを活用できるようにした。もっとも、それらは何も、<ホテル業界は高速バスより「進歩的」だからホテルを真似しよう>と考えた結果ではない。何度か書いてきたように、高速乗合バスのターミナルでアルバイトをしていた学生時代から、<乗車日や便によって運賃を変動させたい>、<需要が集中する日は貸切バス事業者の車両を高速乗合バスの続行便として活用したい>という思いがおぼろげながら「現場の素朴な思いつき」として存在して、それを実現する具体的な手法に、たまたまホテル勤務時代に出会うことができたから、真似したのである。つまり、RMを開発した米国の航空会社やホテル運営会社は、私がバスターミナルの現場で「思いつく」よりずっと以前にそれを思いつき、かつ、具体的な手法にまで落とし込んだということだ。私がなんとかメシを食えているのは、そういう多くの先輩方の工夫や努力のおかげであると考えると、あらためて感謝の気持ちがわいてくる。ただ残念なのは、制度が変わり既存の高速乗合バス事業者でも上記のような施策が可能になったにもかかわらず、積極的に活用した例がまだ少ないことである。ご報告が遅くなったが1月28日付の『東京交通新聞』で、「新高速バス制 京王電鉄バス 『受委託』積極活用」として、平日は大学輸送を行なっている西東京バスの貸切車両を、週末は京王の松本線の続行便として利用する例が紹介され(同紙では既に、京王/アルピコと、西日本JR/日本交通および帝産観光バスの事例も紹介済み)、私のコメントも採用していただいている。逆に言うと、せっかくの新制度が活用されている例はこの程度、ということだ。制度が変わって貸切バス型管理受委託が生まれたとはいっても、いざ「既存」の高速バス路線を貸切専業者が運行するというのは実はハードルが高い。路線や停留所の位置を覚えるといった作業以前に、運賃箱の操作や乗車券の取扱い、釣り銭準備など、(貸切にはない)高速乗合バスのオペレーションを乗務員や地上(営業所)に作り上げないといけないのだ。よって、大都市立地で、すぐに高速の受託ができる貸切バス事業者は実は限定的である。例えば、本来的には地方の乗合事業者で高速乗合バスの運行ノウハウを十分に持ちながら、大都市で貸切バス事業を展開するアルピコ(今回、東京営業所を新設)や日本交通(従来から大阪で大規模に貸切事業を展開)、それから数少ない独立系乗合事業者ゆえ身軽なイーグルバスなどは正にピンポイントでそれらの条件を満たしている。「普通の業界」であるならば、新制度が発表されると同時に彼らの「奪い合い」が始まるような気がするのだが。今週、出張で伺ったある地方事業者で、ご担当の方にRMなどの話をすると、<でも、それってツアーバスの話ですよね>と返ってきて驚いた。営業施策には熱心な会社で、かつ熱心なご担当者であるゆえに余計に驚いたところだ。業界内の、それも経営者クラス、担当者クラス双方への新制度の周知から始めるべきなのかもしれない。ちょうど、大都市立地ハブ型の高速乗合バス事業者や関連機器メーカーなど複数の方から、正にそのような情報発信(それぞれ対象や内容は微妙に異なるが)について協力を頼まれたばかりだから、まずはそれらをせいいっぱいお手伝いしよう。