TBS系『Nスタ』&雑誌『ウェッジ』
高速ツアーバスの乗合移行作業も追い込み段階に入り、停留所等の段取りについても、私の役割は側面支援に移った。私自身は少し時間の余裕が生まれているが、逆に当事者たちは必死のはず。最後まで気を抜かないようにこの事態を乗り切って欲しい。そんな中メディアの注目は続いており、10日(水)のTBS系ニュース『Nスタ』のご取材にご協力し、私自身もインタビュー出演させていただいた。とは言っても実際の放送は確認していないので、翌日お取引先で名刺交換させてもらった方から、<昨日、テレビで見ましたよ>と言われて本当に放送されたんだと安心したしだい。海部観光とウィラーの車両、それも豪華な内装だけではなく安全装置などもご紹介いただいたようで意義ある内容(らしい…)。両社の車両に私のコメントというセットも定着した感じで、関係者の皆様に感謝。さらに、本日発売された月刊誌『ウェッジ』8月号で、高速ツアーバスの移行問題を取り上げていただき、私のコメントや当社でまとめたデータなども大きくご紹介いただいた。さてこの『ウェッジ』。一般書店でほぼ扱っていないので少しご説明が必要かもしれない。本来は、東海道新幹線グリーン車で無料配布する車内誌である。一方、JR(東海、西日本)や大手私鉄、東京メトロなどの駅売店で販売も行なっている。新幹線をよく利用する出張族なら、車内販売スタッフがワゴンを押しながら、「お弁当にお茶、ホットコーヒー。時代の先端を行く雑誌『ウェッジ』」などと声をかけているのは耳が覚えていることだろう。そんな媒体ゆえ出版元はJR東海系の会社である。ところが、というべきか、想定される読者はグリーン車乗客や駅売店でビジネス誌を購入する層であり、誌面には、「鉄道事業者」という響きが自ずと含む保守的な印象は全くなく(もっとも政治的な意味で言う「保守色」、特に中国に対して強気な記事は非常に多いが)、むしろ規制緩和、既得権益打破への強い思いが溢れている。今号をパラパラめくっても、「日本は衰退 先進国では成長産業 漁業改革やることは決まっている」「民間設備投資の回復には規制緩和しかない」「生産のアウトソーシングでコスト削減 日本のコメ農家は脱自作農をするべき」といった見出しが並ぶ。私自身、ほとんど毎月目を通している媒体。この媒体が、もし高速バスの問題を扱ったらどんなトーンになるんだろうと、実は数年来待ち続けていたらこのたびご連絡をいただけた。詳しくはぜひ同誌でご確認いただきたいが、「既存組」高速乗合バス事業者にとっては極めて挑発的な内容になっている。たとえブログのレベルであっても私自身の名前ではここまでは書けないな、というのが正直なところ。なにせ記事のタイトルそのまま引用すると『事故から1年 ツアーバス廃止 潰したはずが下剋上 「格安高速バス」夏の陣』。さらにリードには、<だが、新制度で勝どきを上げるのは、高速ツアーバスだという構図が見えてきた。お家のお取り潰しまで追い込まれた彼らの下剋上劇とは。>とあるのだ。高速ツアーバスの問題を考える時、どうしても注目されるのは、「乗合」「ツアー」という制度の話だ。私は一般的なメディアにはよく、<「ビール」と「発泡酒」の関係>とご説明する。しかし両者の対置には、本質的にはもう一つの基準がある。それは「既存大手」と「新興」という、企業としての性格の差である。もっとも「実力はあるが動きが遅い老舗組」と「勢いで成長する新規参入組」という構図はどの業界にもある話であり、その中で高速バスが特徴的なのは、ごく一部の例外(既存ながら高速ツアーバスも始めた弘南バスや、後発参入ながら乗合を選んだ大阪バスなど)を除いて見事に「既存=乗合。新規=ツアー」という風に、制度面での対置と見事に一致している点である。だがら、最近続いた、「一本化対応に追われる高速ツアーバス各社(結果として供給力が不足する)」という風に、制度自体に着目した記事を「横軸」と考えれば、今回の『ウェッジ』のように、企業としての事業者の立ち位置を掘り下げた記事は、それらに立体感を持たせ陰影を浮き彫りにする「縦軸」に当たる。あらゆる関係者は、ぜひ現物を手に入れて内容を確認していただきたい(またはしばらく持ち歩くので興味がある方はお声掛けを)さて同記事で補足2点。まず記事中で高速ツアーバス連絡協議会について「7月末で解散」とあるが、正確には「7月末ごろ、解散日を決議」であり、残務処理の間しばらく存続の見込みだ(とはいえ1ヶ月程度か)。また、<路線バスへの移行を断念した脱落組の動向>というくだりがあるが、文脈から想像するにスキーバスのことであり、「バスのみ」商品を販売しない限りスキーバスが募集型企画旅行のまま継続することは何の問題もなく特段のニュースではない。もしそれを<抜け道>と捉えた<零細貸切バス会社の社長>がいるとすればその精神構造が悲しくさせるし、一歩譲って、私がまだ思いつかない?ような本物の抜け道?を考えている旅行会社があって、<12月まで我慢してほしい>と取引先バス会社を集め<説明会で周知>したのであれば、した方も、それを影響力ある媒体にペラペラしゃべった方も、いずれもの浅薄さに、憤りを超えて同情までしたくなるような話である。いずれにせよ本記事は、「既存組」(の中で、改革を拒む人たち)にとってはショックなはずである。しかしそれを「ショック療法」に活用しなければ、この記事の意義もない。同誌では以前から(そして今月号でも)従来のやり方にこだわって生産性が上がらない農林水産業に対し改革の姿を提案してきているが、おそらく旧来の農家やその団体からすれば、その内容はバス業界の「下剋上」に勝るとも劣らない衝撃の内容であるはず。それを、<また『ウェッジ』が好きなこと書いてるよ>と開き直ってしまえば成長もないのだ。少なくとも私には、(立場や背景は様々ながら)改革を訴え実践している農業者や漁業者、その研究者らの方が、従来のやり方にこだわるあまり衰退を甘んじて受け入れている人たちよりも、よほど農業や漁業を愛していると、そうとしか見えないのである。