カテゴリ:メディア掲載情報
二週続けて、日経BP社の雑誌に、バス産業の今後について真剣に考えさせられる特集が掲載された。実は例の事故より前から私もご取材をお手伝いさせていただいていた特集達だ。
まず7月4日に発売された『日経TRENDY』8月号の巻頭特集「格安エアライン、高速バス 安心&得な選び方」。同誌は、7月号で事故後の業界の対応を速報いただき、続けて今号では巻頭特集。私自身は、なぜか専門外である「日帰りバスツアー」のページにコメントを紹介いただいた。また、私が仕事で関わっている車両、人物を多く取り上げていただき感謝。ついでに言うと、仕事ではない関わりだが、第4セクター氏の「高速バス選びの必勝法」が紹介されたのは多くの方にとってサプライズだったはず。 同誌では昨年9月号でもご紹介いただいたわけだが、今回の特集を受けて思い出したのは、2009年4月号の巻頭特集。その時私は本ブログにこう書いている。<これまで新幹線や航空機との比較対象として「高速バス」が紹介されることは何度かあったものの、座席のスペック等、高速バスそのもの同士が比較対象としてトレンディに取り上げられるのはおそらく初めてだ>。「紙の時刻表+電話予約」からウェブ予約へと利用者の購買行動が移り変わったことを機に、ウェブならではの「豊富な情報量」を活用しながら、座席スペックなどを利用者が見比べた上で予約する「バスを選んで予約する」時代が定着したことを示す、この特集はまさに象徴であった。 今回の特集では、タイトルに「安心」という単語が入っていることからわかるように、「乗合」「ツアー」といった業態の差に加え、個社ごとの安全への取り組みが比較されている。事故を受け国がまとめた「緊急対策」、および高速ツアーバスから「新たな高速乗合バス」への移行といった制度面からの安全性底上げが確実に実行されるべきなのは当然だが、合わせて、安全性という目に見えない部分についても「選んで予約する」際の基準としてもらえるよう、市場を導いていかねばならない。ここ5年で、ニーズに合致した商品(座席、ラウンジ等)を開発提供した会社に人気が集まり彼らが急成長できたように、安全面に十分な投資を行なっている事業者はその内容を「見える化」し、それが収益を呼ぶ構図が望まれる。本特集はその第一歩となるだろう。 次に、本日発売されたのが『日経ビジネス』7月9日号の特集『「斜陽の半世紀」から未来産業へ バスは蘇るか』。こちらは高速バス事業というよりは、「平場」を中心に企業としての乗合バス事業者に注目した内容。何カ所か引用すると、<「縮小を続けてきたバス市場は、ほとんど思考停止状態だった。それだけに、改革すべき点はたくさんある。伸びしろが豊富で、再生できる可能性を秘めている」>(みちのりHD・松本社長のコメント)、<なぜ停留所がそこにあるのか――。バス業界の人にそう聞いても、こういう答えが返ってくるだろう。「昔からそこにあったから」。(中略)そして今、「動かない停留所」は、バス会社の衰退と思考停止の象徴になっている>(イーグルバス・谷島社長の記事より)。合わせて、高速ツアーバス連絡協議会・村瀬会長のインタビューも掲載されている。 私は、編集部の皆様に「バス産業は日本の縮図」だとご説明を続けてきた。典型的な内需型産業で、かつ厳しい規制の下で「縄張り」が明確(公益性が大きい事業だからそのこと自体は当然で、別に非難しているわけではない)。そのような背景がある中で、戦後復興とともに一気に急成長を遂げ「黄金時代」を味わった後、バス産業は長い間、右肩下がりを続けてきた。だがしかし、縮小フェーズでは、その「縄張り」が逆に足かせとなって業界再編成は進まないし、縮小均衡に甘んじればさえ日銭は入るから危機意識は乏しく、改革意識が生まれない。その姿は、「失われた20年」の中で困惑する我が国の全産業の象徴だ。 さらにバスに関しては、「モータリゼーションの進展」という外的環境変化が先に起こっており、結果として間もなく「失われた45年」になろうとしている。国全体の危機の「一歩先を行く」バス産業の危機を打ち破って見せることこそ、私が取り組みたかった課題である。本誌は定期購読が中心で書店での取扱は少ないが、バス関係者はぜひ手に入れて目を通していただきたい特集になっている。入手が困難な方は、しばらく私は現物を常時持ち歩くつもりなので、お会いした際に声をかけていただきたい。 さて私自身は引き続きバタバタ状態。高速ツアーバスに限定した国の「緊急対策」は一通り出揃い、実行フェーズに移った。フォローのため各現場に顔を出しつつ、高速ツアーバスに留まらずバス全体の安全確保策について関係機関と調整が連日続く。もちろん、それらの業務で手を抜くわけにはいかないしそのつもりもないが、だがそれは、私が本来目指すべき「既存(乗合)事業者のあり方の変革」を後回しにすることを意味してはいない。 独立して会社を作ってまだ1年と少し。事業の対象を高速乗合バス(あるいはその事業者)へと完全に軸足を移し終わった後に、高速ツアーバスのことで時間を取られることに無念な思いもなくはない。だが救いなのは、高速ツアーバスについては「新たな高速乗合バス」への完全移行という明確なゴールがあること。逆に、本来の役割である「既存(乗合)バス事業者のあり方の変革」については、ゴール設定から手を付け始めたばかりである。少なくない数の事業者の、自らを変革しようとする勇気と、その大きな実験の黒子役を引き受けるチャンスを与えて下さっていることの重大さを、手元に届いた二冊の雑誌があらためて認識させてくれてくれた気がする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.07.09 08:05:13
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