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長押 綴

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2010.05.09
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カテゴリ:🌾7種2次表
その背中に憧れた。
飛びつけるあたしたちの距離感が好きだった。

未来ではもうないから、あたしはもう抱きつけないから、なおさら今のその小さな背中が愛おしかった。


*******

農薬と害虫

*******


あたしたちにとって先生は農薬だった。
安居にとって外の奴らは害虫だった。


先生や先輩に植え付けられた先入観という名の農薬でぼろぼろなのに、害虫と近付きたくがない為にひたすらにまた農薬を呷る。

賢いのに、賢いから、現実を直視するわけにはいかない。
正義感が強いのに、正義感が強いから、一度選んだ道を違えられない。


だけど、15の今ここなら、その道に入ることを止められる。

そう思ってあたしは告白するのをやめた。安居の周囲を無味乾燥にするよう努めた。
卯浪の魔の手から、要さんの思惑から、あたしと、あたしに協力してくれる未来から来たと言う仲間たちは安居を庇った。



それが正しかったのかは分からない。

だって結局、廃船であたしたちは放送を聞いている。
違うのはまだ繭ちゃんたちが生きてること、安居や茂と一緒に船に突入してること。
あたしと安居と茂が、同じタイミングで、同じ状況で、例のことを知ったということーだから、お互いの気持ちも共有できる、ってこと。
努めて冷静に怒ったふりをする。卯浪への殺意だけが冴え冴えとしているからそう難しいことじゃない。

あたしの記憶だと、ここであたしは「7人のうち1人」になる。

蝉丸という人がゲームオーバーにしないように逃げ回るって手もあるんじゃないかと言ってたから、もし逃げられるものならそうするつもりだ。
捕らえられるのと、山中で死ぬのとの持久戦になりそうなのは頭の片隅にでも置いておく。

これが終わったら、あたしも記憶を失うのかもしれない。
そうしたら次の周回ではあたしの告白を止めてくれと言ってある。
ハルには微妙な顔をされたけど、他の周のあたしの能天気さを知っているからか苦虫を噛み潰したような顔で頷いてくれた。


安居は、足元がふらついていた。茂はげえげえ、かふかふと吐いていた。
だけどあたしと一緒に武器を持って卯浪の元へ行く足音は止まらない。
だから、あたしが失敗しても、仲間思いの安居が、そして安居の為ならきっと動ける茂が、継いでくれる。

頭がおかしくなりそうな怒りに万能感に高揚感が全ての感覚を静まり返らせる。
大きく一歩前へ。ここはまだ、落とし穴じゃなかった筈だ。ぎりぎりの不自然でない場所まで助走の勢いを保ち、飛ぶ。



どうか、どうか、この周が未来へ続きますように。

今度こそ、未来は綺麗なものでありますように。





錆びかけた斧を振り下ろした先、卯浪は嗤っていた。





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最終更新日  2018.01.02 18:34:38
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