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カテゴリ:◎2次裏書
おれが物心つくころには全てが終っていた。
* おれは何も知らないでいいとよく言われた。 車椅子の優しいにいさんにも、そばかすのおっとりとしたねえさんにも、おれは優しくされてたから、それ以上何も聞けなかった。 村の皆の噂とか、残された色々な物品を見て察するに、おれには兄ちゃんと姉ちゃんが居たらしい。 兄ちゃんのことはなんとなく覚えてる。あやしてもらったような気がする。 だけど、姉ちゃんのことは全然分からない。 村の絵描きのにいさんに頼み込んで描いてもらった絵でも全然ぴんとこなかった。 周囲からは、 「一人目からこうだったらよかったのに」 なんてよく言われた。 おれは良く事情が分からなかったし、面倒ごとを起こしていったらしい兄ちゃんと姉ちゃん、そして姉ちゃんのお父さんについて同情するとか親近感を抱くとかそうした材料もなかった。 ただ少し、褒められるならもっと違う褒められ方をしたかったとだけ思った。 * だけど、ここまで物事がおおきくなったらほっとくわけにはいかない。 「ねえ、おじさん…本当にやるの?」 「ああ。…心配すんじゃねぇ、ちょっと資材を分けてもらうだけだ」 「……」 おれらの村は今年も去年も一昨年も未曽有の飢饉だった。 一方で、この村から色々な理由で逃げ出した人々が作った村は比較的潤っているようだった。 数十年姿を現さず、書置きだけでやり取りをしていた「カミサマ」が言うのだから間違いない。 * その村との交渉には、おれと、お母さんの親友の子が選出された。 「だ…大丈夫かなぁ」 「きっと大丈夫だって!よく分かんないけど、おれらの容姿や立ち居振る舞いが役に立つっつってたじゃん」 お母さんの親友である彼の母親と似た顔立ちに振舞。 お母さんの兄貴分である彼の父親と似た、少し長めの赤い髪。 よく分からないけどそれらを見たらきっと仲間として受け入れてくれるだろうとのことだった。 ……墓守さんや、うちのお父さんは苦い顔をしていたけど、本当に大丈夫かな。 「…もし危なっかしくても、行くしかないじゃん」 もう何人も倒れそうな中働いている。 餓えて、乾いて、尽きた資材をなお漁って。 だからおれ達は。 「おれたちにしかできないんだから」 希望の為に、この茂みの、暗い所へ暗い所へと歩んでいく。 この出来事を、お母さんの親友のあの人が、美しくて勇ましくて報われる話として記してくれることを信じながら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.02.05 04:50:17
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