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長押 綴

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2011.06.27
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カテゴリ:.1次メモ
 その砦は、その国の人々が流す血で固められていた。
土台にはおびき寄せられた魔物の死体が敷かれて緑の血の乾いた跡があった。砦を丸く囲む堀は毒そのものが流れていた。

 そんな砦に挑む若者が、また一人。

「シラ姫……今、参ります」


 異国の奇妙な武器を振り回し、砦の住民たちを屠り捨てながら彼は一足飛びに彼女のもとへ。
 彼は血を払う度に次の敵を仕留める事よりももっと大きな目的に向けその黒い瞳を輝かせる。
 その眼に映るのは魔物の血の緑、住民の血の赤。
 けれど魔物をやすやすと殺す住民をやすやすと殺す若者の目は、それよりももっと遠くを見据えていた。

 数年前。

 彼女の国で見た、美しい白い横顔を彼は忘れることがなかった。

 つぷりと突き立てる度に現れ出るそれに優しく綻ぶ赤い唇を想い出し、響く悲鳴に彼女の高いころころと笑う声を思い出し、彼は口元を歪め、更に走り屠る速度をも上げていく。

 彼女は今どうしているのだろう。この国の残忍な者たちにゆがまされてしまってはいないだろうか。
 いや、そうだとしても、私は必ず彼女の唇に、またあの美しい曲線を浮かべさせてみせる。

 そんなことを考えていたら、城にたどり着いた。

「わぁ、おめでとぉ!」
「!?」

 突如、天から声。

「……し、シラ姫!!?」
「久しぶりねぇ、カンナちゃん。私はこの塔の最上階にいるから、迎えに来て」

そう言うと、彼女はまた引っ込んでしまった。

……おかしい。彼女はあんなに無邪気な、敵陣であんなことを言うような人だっただろうか。

碌にかかわってはいないが、それでもあまりに印象が違う。

まるで、抱いていた記憶が、夢だったかのように。


おかしいおかしいと思いながら、それでも彼は彼女の招く最上階へたどり着いた。独特の曲線を描いた獲物を振り、血をきり、彼女の部屋にいるであろう最後の敵と戦う支度を……


「お疲れ様」



世界が、鮮やかな地平と灰色に渦巻く空が一瞬にして、真っ黒な蔓に埋め尽くされた。
















「くそ、またハシラに持ってかれた……っ」

悔しげに呻く、魔王と呼ばれる彼の前で彼女は微笑む。

「文句があるなら、絶望だけじゃなく夢も与えてあげなさいな」


彼女は胸元に、彼だったものを抱き寄せた。

「お休みなさい。これからは、幸せな夢を」

彼。かつて、ある者のために大罪を犯した人間。彼のような者を、救い続けて、何度目だろう。

彼女は想う。

大罪人とはいえ、使える力は生かすべきーーそう言って、彼女は彼らを永遠に働かせることを提案した。
そのための第一歩が、彼女に絶対的な忠誠を誓わせること。

彼らにとっての一番に、『彼女』を据えること。

それに反発した、魔王他多数が、北風と太陽よろしく彼に試練を与え、その計画の頓挫を狙った。
けれどそれは半分洗脳された彼らには、耐えるべき、むしろ自身を燃え上がらせさえする試練に映るようで。

彼女の政権は日々拡大されてゆく。

「全く、感心してしまうよ。唯一の難点は、こいつらの理想とする守りたい相手の像が、お前さんといつも結構ずれているくらいか。違和感を与えさせたくないんだったら、洗脳だけじゃなく演技や自分磨きも頑張ったらどうだい」
「あなたと一緒にするのでしたら、演技も大変ではない気がしますわ」
「遠慮しておく。気が付いたら、お前さんに妙な『幻想』を抱いちまってるかもしれないしな。幻想から醒める苦痛を避けて、お前さんを盲信する一人になるなんざごめんだ」
「それは残念」


誰かを守っていた筈の彼らは、砦の住民よりももっと強大な戦に向けて赴く。
「彼女を守る為に」自ら進んで死にに行く。


その眼は原色のあの都よりも熱く幼い色に輝いている。


原色の酸い色に守られた、灰色の甘い甘い飴は、今日も誰かを惹きつけてやまない。

その数は、ついぞ減ることはなかった。




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更新
2015/07/02 01:25:04 AM





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最終更新日  2015.08.02 23:40:03
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