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カテゴリ:◎2次裏書
蠱毒の世界なら、孤独にならないと。
醜い世界で食らい合った後、ようやく綺麗な蝶になって飛んでいけるのだから。 ******* 扼要の蠱毒 ******* 人は一人では生きていけない。 だから群れる。 私もきっとその一人だった。 成績がいいから。顔がいいから。態度が悪いから。 私は搾取され続けた。 そんな無様な負け犬達を置いて、私達は未来に、望んだ世界にやってきた、つもりだった。 だけど来てみたら大変。 未来の植物は見たことがないものばかり。 最終試験のせいで仲間は何人か壊れてる。特にあの人。 私も月に追われている。この目が見殺しをしたあの時を覚えている。 ようやくであった他のチームとは反りが合わない。 それでも、彼は違った。 彼は綺麗だった。 彼は一人だった。 彼は生きていた。 どこか壊れてもいたけれど、彼のそれは支えたいと思った。 月が怖くなくなった。 * 他のことはどうでもよくなった。 かつて戦友のように握手をした、あの人のことも。 * 私に子育ては向いていなかった。 だけど彼には向いていた。 だからなのだろう。 私の遺伝子が彼を求めていた。 納豆やもち米やタロイモのように粘りまくっている彼がいつものように落ち込んでいる時、酒を呑ませて誘った。 正直言って興奮した。 可愛かった。 男が女を襲いたくなる気持ちってこんなものなのかしらと思った。 * 出来た子供は彼に似ていた。 私がする子育ては実験染みているとよく周囲から陰口をたたかれたけど、あながち間違いではなかった。 日ごとにすくすく育つ力を色々な角度から支えたい気持ちのどこがいけないのか分からない。堂々と言えばいいのに。 私の子供に抱く気持ちは、植物に対して抱く愛おしさと似ていた。 * あの人の子供が出来たと聞いた。 どうでもよかったけれど、あの人に似ていると聞いてどう育つのかは興味を持てた。 途中までのあの人のことは、子供を作ってもいいと思うくらいには評価していたから。 蠱毒のような環境に追い込まれて狂った馬鹿さ、仲間を喪って駄目になってしまう脆弱さ、恨みを明後日の方向に発散してしまう要領の悪さ…途中からは馬鹿もいいところだったけど。 そして子供を作った、その相手があの人の相方とくっついた娘だったときいて、……あの人がその子と母体を置いて逃げたと聞いて、やっぱり馬鹿は馬鹿かと思った。 あの人の相方が更にその後を追ったと聞いて頭痛。 施設で似たような場面を見た気がする。 大抵私が周囲の男子を見てるとあいつらに虐められたから、それも含めてあんまり思い出したくないんだけど。 置いて行かれた娘の所に、うちの医療担当のあの子と一緒によく検診に行った。 少し問題行動があるけど腕前は信用できる薬師と紹介された。失礼ね。 娘と赤ん坊はボーっとしていることが多くて、赤ん坊の三歳になる兄だけがせわしなく動き回っていた。 私達がこれぐらいの頃は何をしていたかしら。ぼんやりと思い起こす。 あの頃はまだ、蠱毒なんて意識させられなかったわね。 あの頃はまだ、過去を捨てる為に未来に行きたいなんて思っていなかった気もする。 結局、そう思えた私が一番後悔せずに済んでいるから、この選択は間違っていなかったのだろうけれど。 家に置いてきた子のことを思い返しながら、この成長は順調などとアドバイス。ついでに母体にいい食べ物、離乳食の時期などについても話す。 ちらちらと黒髪が目に入る。ふわふわと。 あの人と同じ。 「……そんなにつらいのなら、他の人に育てさせる?」 「……ダメ……他の人…だと…もっと…育てられない…」 あの人は嫌われている。 その結果が自己犠牲と自己満足の塊の赤ん坊でしょうに。 「…まあ、気にしない人が、動物のお乳を呑ませて育てるっていう手もあるわ」 「……それでも…任された…から」 このままでは親子ともども共倒れにならないかが心配なんだけどね。 同居している、彼女の母親のような女性もそうした目で見守っている。 「…」 使命ってやつかしら。分からないわ。 「そろそろ行きましょうか」 「……うん…」 薬箱を持って立ち上がると、『兄』である少年と目が合った。 私達を、味方でないのに、味方と思わなければいけない目。 どこかで見た目。 トイレの鏡。 ……どうでもいいわ。 汚い過去は置いてきたの。 養分のある肥料にして、綺麗な花を咲かせたの。 だからあなたも、そうするべきだわ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.11.13 12:42:48
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