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カテゴリ:◎2次裏書
昔から待つことが苦手だった。
待っても父は来なかった。 待っても帰ってきた父は逃げてばかりだった。 この世界に来てから、死ぬのを待ち切れずに彼を愛した。 勢いを止められなかった。不安だった。動いていないと生きられなかった。 あの時だけ生きていると実感できた。 そうして新しい命が出来た時は、とてつもない不安と後悔と、それでも毎日の生きている実感がやってきてくれた。 恨まれるかもしれない。 幸せに出来ないかもしれない。 それでも、生みたかった。 あたし達は待たせないようにしたかった。 待たせるくらいなら、最初から在ることを教えない方がいい。 誰を悪者にもしたくないなら、教えないのが一番だから。 それなのに、待ち切れずあの子たちは出て行ってしまった。 どうすればよかったと言うのと言うあの娘を宥め、あの男は三人目を育て始めた。 その顔はあの娘の取り乱しようと逆にひどく落ち着いていて、あたし達は何も言えなかったけれど全てあの男が原因であることだけは分かった。 あの男は、つきものが落ちたように、あるいは自分の役目を果たし切ったかのように、日々穏やかに暮らしている。 だからこそあたし達は何も言えない。 これまで、時々どこかに姿を消していた理由も、その行先も。 * 今日も薬指を撫でる。 不安な時の無意識の癖。 数年前、あたしに孫が出来た。 あの男にも恐らくできてる。 ……いや、孫というより、子供と言った方が正しいかもしれないけれど。 あの男の子供達は、少し離れたところに村を作ってる。 何を要にして集まってるのか知らないけど、その団体はあたし達とけして触れないようにしてる。その統率力は、あたし達の所の村長と同じくらいに高い。 皆、なんとなく察してる。 でも、言ったらきっといろいろなことが崩れる。 あの娘とあの男の『三人目』の子は、今度こそあの娘に似たようで、そして空気を読む力もかつてのあの娘に似たようで、何も訊かないけれど。 その子さえ、きっと察してる。 でも、動けない。 何を待つこともできない。 ……むしろ、待っている相手は、待たれているのは、あたしたちのほうなのかもしれない。 だけど。 争ってはいけない。 この世界には、もう人はほとんど残っていないから。 * 絶滅寸前ならば、あの男のしたことはむしろ正解なのかもしれない。 たとえそれが、あたしたちの倫理観を殺すようなものでも。 Last updated 2017.11.11 23:28:44 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.11.12 22:49:23
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