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カテゴリ:◎2次裏書
宗教とは恐ろしい。
信じるものがあれば、守るものがあれば、人は強くなれるから。 ……その信じるもののために、守るもののために、どこまでも、なんでも犠牲にできるから。 僕は、まがりなりにも芸術家。 僕の担当は美術で、他にも音楽、文芸、料理、工作、衣装づくりなどをする人達がここにはいる。 その中に美容師も含めるなら、僕の妹のような彼女も芸術家の一人だ。 数年前、彼女に子供が出来た。 だから彼女と夫、その相方の3人は、子供が大きくなるまでこの村で暮らすことになった。 彼女の夫は、当初また長旅に戻るつもりだったらしいが、暫く移動ばかりしていたのだからと村の人達何人かがそれを止めたのだ。積もる話もあるだろうと。 彼女の夫と相方は、村の人達半数ほどと折り合いが悪かったので反対されるだろうと思っていたらしく、少し驚いた顔をしていた。 反対しそうだった何人かは、少し迷った反応を見せていたけれど。 「いいんじゃない?」 そういう人間関係の話は苦手だからずっと黙っていたけど、僕も気が付いたらそう言っていた。 彼女がぱっと嬉しそうな顔をした。嬉しかった。 ずっと一人っ子で、おばあちゃんに育てられていた僕としては、マイペース過ぎて人と馴染めなかった僕としては、おばあちゃんを喪った時、ずっと一緒に居ると言ってくれた彼女が嬉しかったから。 ……そして正直言って、彼女の夫は美術の題材として興味深くもあったから。 * 宗教画は好きだ。 描いている本人、もしくは依頼した人の執念が籠ってくるものが。 この世界を歩き回っている時にたびたび見掛ける仏像達も、そんな執念を籠めていた。 跪き、 希い、 請い、 乞い、 憂い、 追う。 見返りは己の魂。 尽くすことで自分の人生がよりよいものになると思うからこその、奉仕。 約束された浄土。 ひたすら純粋な気持ちで構成されたものたち。 善意。 舗装された地獄への道。 コンプレックス、ルサンチマン、歪み、優越感。 形をなぞっている内に、その形がどういった歴史を辿って今ここにあるのかさえ浮き上がらせる。 18年もののそれは、なかなかに面白い歪みと真っ直ぐな芯を現している。 * 彼女に二人目の子が生まれた。 希望と絶望を宿したその子を、一人目の子は大事にしようとしている。 まるで自分が得られなかったものを与えるかのように。 けれど、その様子すら、彼女には耐えられないようだった。 僕が出来ることと言えば、彼女の話をたまにきくことぐらいだろうか。 ろくな答えも出来ないけど、それでいいと彼女は言った。 * 夜中作業をしている時、昔話の動物のように、素材を置いていく彼の姿をたまに見かける。 何度か、僕の画材に使えるような材料をもらったこともあるから、僕としては彼に行きつけの画材屋さんのような親しみは感じていた。 彼個人の生き方は恐らく僕とはうまが合わない。 彼は娯楽を削ぎ落とすような生活をしてきたようだったから。 だけど、それだけ一心に研ぎ澄ましてきたからこそ、ある種の人の目線、希望、願望、要望、失望、そういったものものを集めるのだろう。 芸術は、完成してからもいくらでも年月により変化を見せる。 時には、修復しようとして望まない変化をもたらされてしまうことも。 この場合はどうなんだろうーなどと僕は考える。 美術で僕が彼らを表現するなら。 後世の人々に、年月を経て見られるとしたら。 時間が濃縮される感覚。 僕の信じる、よく知った感覚。 ……描いてみようか。 彼らの信仰にも似た、何かを。Last updated 2017.11.06 20:55:29 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.11.12 22:55:45
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