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カテゴリ:◎1次擬人化
陶器質の最大の魅力は、つるりとした面や、それと一緒に現れ出る彩の豊かさにあるように思う。僕の親戚が経営している温泉旅館では、磁器ではありえない親しみや時代を経たがゆえの風合いを醸し出す茶碗に湯船が魅力とされている。
風呂釜でなく、床・壁・天井においても同様のことが言える。包まれて浮世、外界から少し隔絶されたような少々高級な感覚が味わえるのだ。 「どうだ、時季よ。お主にこのような風合いが出せるか?」 僕の子孫はすごいだろう!と胸を張ると、相変わらずの無表情で時季は振り返る。 「はいはい。すごいすごいー」 「っ…その、何にも気にしとらんという態度が気に食わんのだ!」 むきい、と怒るも時季は伸ばした僕の腕をすり抜けてひらりと木の上へ飛んでゆく。体に反して体重がある僕にはできないことだ。 「あはは。かわいいかわいい」 「そ・の・棒・読・み・を・や・め・ろっ!!!」 真にこいつは掴めない。僕は以前陶芸作品を作る仕事をしていたが、その時ライバルとして同門生のうちで唯一見止めたのがこいつだったのだ。だのに、こいつはその作る磁器と同様に何者にも染まらぬ白おもてでいつも僕の突っかかる様をただ見ているだけなのだ。つるりつるりと滑って、気付けば相撲で言う場外状態。子供ができ、孫ができてまで突っかかっていた僕も僕だが。 ー幽霊となって、子孫を見守る側になってさえ、これなのだな 「それはこいつがまともに勝負を受けないからで…」 「受けてるのに、当季が納得しないんじゃないか」 ご先祖様の声が響く。ご先祖様といえば格式が高いが、ようは僕の爺さんだ。人をからかうのが好きな爺さんだ。敬う気も従う気も特にない。 陶器、磁器のような焼き物とは違って、時季の反応はいつもいつも同じだ。焼き物は焼きあがると割れたり、塗りが多すぎて溶けたり、セットもののサイズが合わなくなっていることなどするのに、こいつだけはずっとずっと僕が何をしようと、静かに笑っている。 僕が先に結婚しようとも、子供ができようとも、こいつを遺して先に逝こうとも、いつもいつも能面なのだ。その顔を壊してやりたい。 ーいつだったか、能面が壊れたことがあった。確か、僕が生意気すぎて同門のほかのやつ等にいじめられていた時だった。能面に助けられたのも、その苛烈な表情に驚かされたのも、自分ではどうにもできなかった問題を片付けられてしまったのも、全てが屈辱で、あの時僕は、今度は自分の力でこいつの能面を壊してやろうと思ったのだ。 「今日こそその能面剥いでやるよ」 「あはは、できるもんならやってみな」 ーはあ、やれやれ。 くるくるまわるつむじ風と、すーっと吹き抜ける秋風は、高い空へと抜けていった。 ***** 無表情であることにプライド持ってる奴×お祭り騒ぎの中心みたいな奴 逆にするか迷いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.01.16 19:06:44
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