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「これ以降はあの子が何を言っても何も与えないこと」
「えぇ、でもそれは…」 「…全く優しいなあ、こささは。だけど、その「でも」は聞けない」 ーこれは、こささの為なんだから。 そう言って、サントリナは天界へ帰っていった。 満月を背景に、青緑の髪と星のような髪飾りがちかちかまたたくその光景は、夢のよう。 「ー……もう、出てきていいよ。チャンダナ」 そう言うと、白い小さな頭がひょっこり僕のポケットから顔を出す。 「サントリナ、居ない?」 「居ない居ない。……あの子も、悪い子じゃないけど…チャンダナとの相性は悪いよね」 「…うん。サントリナは、こささのこと、心配してる。わ、わたしが、こささの栄養吸って、生きてるから」 「…いいよ、別に。そうしないとチャンダナは生きられないんだから仕方ないよ。チャンダナが行き倒れてるの見るのも嫌だし」 「優しすぎるよ、こささは」 別に自分は優しくしているつもりなんてない。余計な事に首を突っ込むとまで言われる。単にお節介なのだろう。サントリナには面倒ごとを背負い込む性格と言われたが、お蔭で手に入れたものの方が大きいと僕は思う。 「こささが魔王様だったら、わたし、仕事頑張るのに。こささが神様だったら、進んで浄化されるのに」 「チャンダナのそれは信仰なの?なんなの?」 チャンダナは「自分を嫌がらないでいてくれたのはこささだけだから、こささの言うことならなんでも聞くよ」と言う。-きっと、チャンダナは自分で色々と決めるのが苦手なんだろう。だから僕に依存している。チャンダナからそういう目で頼られるのは正直嫌いではない。 だが、重い、というのも事実だ。それに、僕はずっとチャンダナを助けられるとは思えない。 僕はチャンダナとの約束を破らないだけだ。溺れる者は藁を掴むというような様子で契約書を差し出したこの子が放っておけなかっただけだ。 現に彼女が本当に望んでいる一対一の愛など与えてあげられないし、涙をいつも拭ってあげることなんてできない。蝙蝠のような羽をはためかせる彼女の短い間の止まり木になれればいいかぐらいの気持ちだ。僕はつまらない人間だけれど、丈夫さと安心感を与えることには自信があると言える。 そんなことを言うと、また信仰しているかのような目でチャンダナは見てくるから、言わないけれど。 「僕は、誰かの笑顔を見たいだけだよ。」 だから悪魔の力はまだそのためにしか使っていない。 叶えれば叶えるほど魂が奪われ、チャンダナの生きる力と魔法に転換されるのは知っている。 けれど半分はチャンダナの笑顔を見る為にやっている節がある。 「…でも、わたしが居る限り、サントリナは…」 「……うーん…」 思い出す。 サントリナはチャンダナとは別の所で行き倒れていたのを助けた。 その時は鳥のような姿をしていたから、自分の部活である生物部に連れて行って、先生や先輩の手を借りて介抱したものだ。そうしたらある朝女の子の姿になっていてびっくりしたのだ。 「あなたに恩を返します。……例えば、あなたにとりついている悪魔を追い払うとか」 にっこりと愛らしい顔で笑い、そうしたやや過保護なことを言ってくるサントリナ。その気持ちは嬉しいのだが。 「うーん、今はいいかな」 「あなたは我慢しすぎです!部活でもいつも我慢して、人の代わりに頑張ってるじゃないですか!」 「そういうのが好きなんだよ」 逆に言えばそれしかできない、つまらない人間と言う事でもある。 傍目から見て明らかにおかしい関係だと、このままでは養分を吸い取られて絞め殺されてしまうとサントリナは言ってくれる。けれど、僕は放っておけないのだ。 「「そんなこささが好きなの」」 片手に二人が乗っていてどちらかを選べといって来る夢を最近よく見る。 笑顔の裏に、こんな責任があるなんてなあ。 -そう思いながらも、僕は今日も笑っている。 たまにはサントリナのように怒ってみたいとか。 チャンダナのように泣いてみたいとか。 そう思いはするけれど、僕の代わりに感情を露わにしてくれる二人を見ていると、その必要もないかなとも思うのだ。 *** 名前由来: サントリナ→虫除けにも使われる爽やかな香りを持つハーブ チャンダナ→白檀の別名。途中までは自生するが、それからは何かに寄生しないと枯れてしまう。 ささ→花言葉:ささやかな幸せ サントリナは顔は笑顔だが怒ってばかり、チャンダナはびくびくした笑みで泣いてばかり。 こささはのんびり屋のお人よしで、笑ってばかり。周りの人が笑顔以外だと落ち着かないけれど、ギャグセンスはあまりなく、そのことに若干コンプレックスを抱いている。 サントリナ最終更新日 2017.02.06 16:57:04 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.02.11 21:12:39
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