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長押 綴

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2012.02.28
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カテゴリ:◎2次裏書
知識は人を幸せにするだろうか。議論は人を不幸せにするだろうか。


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肝要な断片


*******





俺は知らないことが怖い。

気付けなかったということを悟られるのが怖い。

ある意味、「知っていてしたならいいけれど、知らないでしていたなら許せない」みたいなものだ。
嫌われる覚悟があって殴っている人より、嫌われる覚悟なしで殴っている人が嫌い、みたいなもの。


あいつに、知らない事を、「知らない」という自分の特徴を相手に知らせることが大事だと言われた。


けれど俺は、知らないといくら言っても、何も教えてもらえないことが耐えられなくなってきている。









母さんも、父さんも、何も語らない。

親の世代は、大人たちの世界は、「恨みは俺達の世代で終わりにするんだ」と誓い合っている。


だからその世界から外れたその人は、俺にとって唯一の例外だった。





妹はよく居ないことにされていた。

俺にとっては大事な妹だが、俺が妹を大事にしている素振りを見せると母さんがまたおかしくなってしまうので表向きは冷たく当たっていた。


きっと皆そうだった。


年頃になっても、恋愛ごととか性的なことに関わる全てが妹には伝えられないようになっていた。
まるで眠り姫のように。




妹はこの村で生まれた。

妹はこの村の誰とも似ていない。

そのことは突っ込んではいけないらしかった。





父さんに似た俺は、最近生まれた母さん似の弟をあやしながら色々なことを思い出す。





その人は死んだと伝えられていた。


その人こそが、妹の父親なのだろうと思っていた。





その人を見た時、妹を見た時に感じる第一印象と同じものを感じた。

ただ一つ違うのは、光が走るのが一つだけだということだ。


その人は、半身、右側を失っていた。


火薬の取り扱いを間違えたのだそうだ。

父はそれを利用し、その人を死んだことにした。
洞窟に匿い、たびたび食料を差し入れた。




その人の消し炭になった肉と、燃え残った骨は、その人が最も愛する人の墓に一緒に埋めてあるようだった。




墓の中の人が、俺の夢の中に出てきたあの人が、導いた縁。

妹にそっくりな子供ー…ちょうど、その人が失った半身と同じくらいの大きさのー…を連れた、あの人。


妹の命を助けたいのならそこを訪ねろと言っていた。





妹は誰とも知らない男の子を身籠った。

相手の名前を妹は言わない。

妹は、頭が良い。
だが、学も知恵も働かない。
だから何が正解か分からない。

それでも、俺にさえ隠し通すということは、その相手はおのずと限られていた。










妹とそっくりなその人を俺は甚振った。


その人のせいだということにしたかった。


妹に抱えていた想いをぶつけていた。


その人は何も言わず、抵抗もしなかった。


まるでかつてそんな目には嫌と言うほど遭ったというように。
それをすれば満足かとでも言いたげな顔で。


それが更に俺を煽った。







妹が子供を産んだ。


案の定、恐らく父親であるであろう奴と、妹に似ていた。


妹はそれの何がいけないのか分からない。
俺は目を瞑る。その人も、目を瞑る。

そうしないと生きていけないからだ。


父が来なくなったからか、その人は器用にも左手と左足と口で義手と義足を作っていた。

そのことが少しだけ苛立ちを誘ったが、妹の声で目が覚める。

そうか、父もきっと。






俺と妹を、その人は自分の家族のように扱う。
何があっても、何をされても、赦し切ろうとするかのように。

脳裏を、生まれ育った村の仏像が過る。





あれから数十年が経った。

あの村に居辛い人々が集まって、この場所はちょっとした村のようになってきた。

俺達のある意味で親のようなその人は、村長のような立場になった。

父はこれを見ているのだろうか。


たまに昔居た村の話を訊く。

侵略や物資の奪い合いなどになってはたまらないから、警戒はしておくにこしたことはない。
喩え今はよくても、世代を一つ二つ越えるとどうなるものだかわかったことではない。


妹は何人もの子供に囲まれて笑っている。
それがいけないことだと妹は知らない。教えられていない。

「それなら、その無知を守り通すのが兄の俺の役目だ」

そんなことを、右側のないその人の右手となりながら言うと、その人は少しだけ寂しそうに笑った。


Last updated 2017.11.11 22:09:12





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最終更新日  2017.11.12 22:50:48
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